第六十一話 日本シリーズその六
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「それでもいるから」
「だからですか」
「神様にもさらに上がいるんですね」
「そうよ、上には上がいてね」
それにだった。
「上は果てしがないのよ」
「じゃあその上をですか」
「どんどん登っていくべきなんですね」
「女坂よ」
部長はこの言葉も出した。
「その坂は果てがないのよ」
「女坂ですか」
「男坂じゃなくて」
「男坂もあるけれど女坂もあるのよ」
「そうだったんですか」
「女坂もですか」
「男坂があるけれど女坂はない」
部長は笑みを浮かべて語った。
「そんな理屈はないでしょ」
「男のものがあれば女のものもある」
「そういうことですか?」
「そうよ。男と女は一緒よ」
そのどちらもだというのだ。
「同権でしょ、別々ではあるけれどね」
「男と女は違うものでも」
「同権だから」
「男の神様もいれば女の神様もいるじゃない」
今度はこう言った部長だった。
「坂も然りよ」
「男坂もあれば女坂もある」
「果てしない坂がですね」
「言っておくけれど登りはじめたばかりで終わりじゃないわよ」
この言葉も出す、坂道に足をかけたところで終わりではないというのだ。現実の世界ではそうだというのだ。
「未完って漢字が出てね」
「それって打ち切りみたいですね」
「納得いかない終わりですね」
「それは漫画だけでね」
もっと言えば原作者も納得していなかったらしい、この結末には。
「終わりがないのが現実よ」
「自分が死ぬまでは、ですね」
「終わらないんですね」
「登って登ってね」
そうしてだというのだ。
「その一生が終わるまで、頂上があるかどうかはわからないけれど」
「登っていくんですね」
「女坂を」
「慢心したら登りきれないものよ」
途中で止まってしまう、そうなってしまうからだ。
「だからいいわね、慢心して立ち止まることなく」
「はい、登ります」
「女坂を」
一年生達も部長の言葉に応える、阪神の話から自分達への戒めの話になったがそれは彼女達にとって納得出来るものだった、この日の部活はその中ではじまった。
各自充実した部活を楽しんでいた、しかし顧問の先生の一人は。
彼女達を見てだ、微妙な顔でこう言うのだった。
「皆楽しそうね」
「はい、阪神の日本シリーズですし」
「楽しみですから」
「全く、今年はねえ」
どうかとだ、この先生は言うのだった。見れば濃い感じの青い上下のジャージを着た若い女の先生である。
「ドラゴンズはねえ」
「優勝出来なかったっていうんですね」
「そうなんですね」
「ええ、残念ながらね」
苦虫を噛み潰した様な顔での言葉だった。
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