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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第58話 「舞台に上る者、退場する者」
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かん。宰相閣下に報告するんだ。……あと……帝国……を…頼んだぞ」

 ラインハルトに向かい、そう言う。
 視界がぶれ、赤く染まる。同時に意識が途絶えた。

 ■最高評議会ビル玄関前 アレックス・キャゼルヌ■

 サンフォード議長とブラウンシュヴァイク公爵が地球教徒のテロに倒れた。警護の兵ごとだ。
 いったいどこからあのような武装を手に入れたのか……。
 捜査が入るだろうが、今はまだ分かっていない。
 ブラウンシュヴァイク公爵と共にいた金髪の少年は、報告のために旗艦に向かった。担架に載せられていった公爵をしばらく見守っていたが、顔を上げ、意を決したように堂々と歩き出す姿に、言い知れぬ何かを感じたのも確かだった。
 確か、ラインハルト・フォン・ミューゼルといったか。報告書によれば、あの皇太子の秘蔵っ子だそうだ。帝国には皇太子だけでなく、あんな少年もいるのだと思い知らされる。

「先輩」

 ヤンとアッテンボローが部屋にやってきた。
 その後をラップと連れ立ってフォーク大佐の顔も見える。どの顔も沈痛な表情を浮かべていた。

「ロボス司令長官とシトレ校長は二人で話をするらしく、しばらく席を外すように言われました」
「それで俺のところに来たのか」
「はい」

 ラップがそう言い。みなが頷いた。
 俺はアッテンボローに目配せする。まあコーヒーでも飲んで落ち着くといい。
 サンフォード議長が亡くなった。
 気の弱いところもあったが、和平のために動いていた人物だった。
 軍も協力を惜しまず、ようやく同盟は政治も軍も一つになって動けるようになってきたというのに、最悪だ。議長と皇太子。正反対の人物だが、それでも対話の糸口がつかめかけていた。

「次の議長は……」

 誰だろうか?
 まともな奴なら良いんだが……。

「ヨブ・トリューニヒトでしょう」

 ラップが苦い物を噛んだような渋い物言いで言った。
 考えないようにしていたが、やはりそうか。最高評議会議員の中でも、すでに根回しが済んでいるのだろう。テロを画策したとまでは思わないが、状況を利用するはずだ。

「それにしても今回のテロは……まさか帝国が」
「いえ、それは無いでしょう。あの皇太子はなんのかんの言っても、対話の窓口を閉ざしていない。むしろ銀河系に単一の国家しかない状況に、懸念を持っているはずです。何らかの形で別の政体を持つ国家の存続を図っている」

 フォーク大佐がそう言う。
 驚くべき事にヤンもフォーク大佐の意見に頷いた。

「多様性の維持です。それに民主主義国家のみになる事も問題視している」

 ヤンもそんな事を言い出す。そういや最近、皇太子に関する本をやたら読んでいたみたいだが、皇太子の思想のようなものを探っていたのか?
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