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母の怪我
第一章
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第一章

                    母の怪我
 百瀬美佳は普通のOLである。歳は二十七歳で一応彼氏はいるが結婚はまだ考えていない。髪はボブにしていて目は少し垂れ気味で笑っている感じだ。口は少しばかり大きめで鼻は小さい。お面のおかめに似ているということで昔から仇名はお多福だのおかめだの言われている。そんな女だ。
 実家から離れたことはなく高校も大学も今の会社も実家から通っている。両親と一緒に悠々自適の生活というわけである。
「うちにいるのはいいのよ」
 彼女にそっくりの母親の美並はいつも彼女に言う。
「それでもね」
「またいつもの言葉?」
 自分の部屋に掃除機を持ってやって来た母に対してうんざりとした顔を向けて応える。クッションの上にジーンズとシャツという格好で寝転がりそのうえでファッション雑誌を見ながら。
「あれでしょ。家事もちゃんとしなさいでしょ」
「そうよ。部屋だってこんなに散らかって」
 確かに汚い。あちこちに袋やら小道具やら本やらがばら撒かれている。ベッドの周りもそうで足の踏み場もない程である。ゴキブリが出てもおかしくはない。
「掃除しなさい、掃除」
「気が向いたらするわ」
 こんな調子で言葉を返す。
「気が向いたらね」
「そう言ってどれだけ掃除してないのよ」
「さあ」
 如何にもやる気のない言葉だった。
「気が向いたらだから。何時かね」
「じゃあずっとしないのね」
「去年したばかりじゃない」
 今度はこう言った。
「去年。したわよね」
「去年の大晦日でしょ」
 母はその日が何時かはっきりと覚えていた。
「それで今何月?」
「さつきが奇麗ね」
「それから全然お掃除してないじゃない。どうするのよ」
「掃除しなくても死なないわよ」
 目にまでやる気が見られない。
「心配しなくても。だからいいのよ」
「家事は何もしないし」
「仕事してるから疲れてるの」
 このことを言い訳にする。どちらにしろ全然やる気がないのがわかる。
「お母さん家にいるし。だからいいじゃない」
「将来靖久君と結婚するんでしょ」
 その美佳の彼氏である。
「家、確か」
「そうよ。鰻屋よ」
 それも結構大きな店である。
「それがどうかしたの?」
「だったらせめて料理だけでもしなさい」
 母の言葉は厳しい。
「料理屋に嫁ぐんだからね」
「料理はしてるじゃない」
 娘はむっとした顔になって母の今の言葉に言い返した。
「ちゃんと。してるでしょ」
「お醤油使ったのもしなさい」
 実は美佳はイタリアン派である。何かといえばオリーブにトマトである。和食は食べるのは好きだが作ることはないのだ。母はそのことを言っているのだ。
「わかったわね」
「はいはい」
「とにかく部屋は片付ける」

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