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渦巻く滄海 紅き空 【上】
三十一 黄昏
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再不斬のような抜け忍がいると知れば、木ノ葉の里は早々に手を打つだろう。警備が厳重になり、今以上に動きにくくなる。故に、言わば『外』であるジャングルの奥地――元空忍・神農の要塞で暫く身を潜める。
だからこそ自来也に「外に目を向けるより内を注意した方が良い」などという忠告をしたのだ。実際この言葉はナルトの考案によるものである。わざわざ姿を晒してまで再不斬が自来也と対面したのも、ナルトの意図に従ったまでの事。
今現在、里の内部にばかり目を向けている木ノ葉は、逆に外に対する警戒が薄れている。従って里の外部にまで目を光らせるとは考えにくい。
加えて空忍の残党をわざと残したのも、再不斬やドス達の修行相手にするためであった。


「…お前のそういうとこ、気にいってるぜ」
「そりゃどうも」
くつくつと肩を震わせ笑う再不斬に、ナルトは笑顔で応えてみせた。













月が薄く空に掛かっている。里の小高い丘目掛けて、宵の明星が微かな光を放っていた。
なだらかな丘陵のあちこちにある水溜りは、真上に広がる群青色の空を鏡のように映している。ある一つを除いて。

ザバリと飛沫を上げる。水を滴らせながら徐々に形成される、人の身体。
地に手をついてゆっくりと身を起こした彼はぶるりと身を震わせた。太陽が沈んでしまったため、気温はぐっと冷え込んでいる。

「ボクは諦めが悪いほうでね…。必ず手に入れてみせるよ」

眼下に広がる里を見据え、宣戦布告する。完全に人間の姿へ戻った水月は、丘上から街を見下ろした。


再不斬に【水牢の術】で水の円球に閉じ込められた際、彼は咄嗟に【水化の術】を用いた。全身を液化することで、あたかも消えたように見せ掛ける。そして【水牢の術】が解かれたその瞬間に、再不斬の足下の水溜りにその身を溶かした。
つまり水月は逃亡したのではなく、再不斬のすぐ傍にいたのである。


里を透かしてどこか遠くを見つめる。昼間と違い圧倒的な静寂を前にして、彼の心がみるみる内に沈んでゆく。だが気力を奮い立たせるように、水月は殊更強い口調で誰ともなしに呟いた。

「『霧の忍刀七人衆』の忍刀を集める。そうすれば、きっと―――」



突然、バサリと羽音がした。弾かれたように水月は空を仰ぐ。彼の頭上を一羽の梟が通り過ぎていった。木の枝に止まり、ぐうるりと首を傾げてみせる。


爛々と輝く金の瞳。ほー…という暗澹たる鳴声が、殺風景な丘上で不気味に響き渡った。

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