暁 〜小説投稿サイト〜
少年と女神の物語
第五十八話
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だよ、氷柱。それは、本来軽々しくやっていいことじゃない」

 忘れそうになるけど、本来はそのはずだ。

「でも、」
「でもじゃない。・・・キスってのは、自分の好きな人に対してやるものだ。最低限、それだけは守らないといけないんだよ」
「・・・説得力、ないわよ?」

 それを言われると、かなり辛い。

「・・・まあ、だからこそだ。俺がこんな状況だから、そんな事を考えてる」
「・・・私とキスをするの、イヤなの?」
「そうじゃないよ。でも、それだけで決めていいことじゃない。ほら、行くぞ」

 俺がそう言って歩き出すと、

「兄貴!」

 そう、真後ろから氷柱に呼ばれた。

「ん?どうかしたか、つら」

 そして、振り返りながら言おうとした言葉は、最後までいうことができなかった。
 俺の口は・・・氷柱の口に、塞がれていた。
 ほんの数秒間、舌も入ってきたが・・・それで、氷柱は口を離した。

「・・・これで、傷は治ったでしょ?」

 そう言って笑う氷柱の顔は、いたずらっ子のようにも見えた。

「確かに治ったけど・・・でも、俺が言ったことは、」
「それなら大丈夫よ。何の問題もないわ」

 そして、氷柱は表情を変えずに、しかし頬を真っ赤にした状態で、

「私、兄貴のことが好きだから。異性として、ね」

 そう、はっきりと言ってきた。
 ・・・どこか、吹っ切れたようにも見えた。

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