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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百十三話 暗部
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」
わしが声を張り上げるとリッテンハイム侯が“最後まで聞いてくれ、頼む”と言った。表情は苦しげだ。
「それを聞いた時、私が最初に思ったのはそれが突然変異なのか遺伝として引き継がれた物なのかという疑問だった。その疑問の持つ意味に気付いた時、私は震えあがったよ。ヘルクスハイマー伯は何も気付いていなかったがな。気付いていれば私に教えぬだろうし伯も死なずに済んだ筈だ」
「……まさか」
声が震えた。リッテンハイム侯が頷いた。
「サビーネの遺伝子を密かに鑑定させた。結果はサビーネもX連鎖優性遺伝病を引き起こす因子を保持していた」
気が付けば呻き声が出ていた。
「母親が姉妹である二人の娘が同じ因子を保持していた。突然変異ではない、母親から引き継がれたものだ。どうすべきか迷った。公に相談すべきかとも思ったが先ずは先々帝陛下に報告しなければと思った。エルウィン・ヨーゼフ殿下の事も有った。保有者は先々帝陛下なのか、皇后陛下なのか……、正直に言おう、死も覚悟した」
「……」
侯だけではない、わしも死ぬ事になったかもしれない。王家に遺伝子の疾患など有ってはならぬ。原因はわしとリッテンハイム侯という事になったはずだ。
「先々帝陛下はご存じであられた。保有者は皇后陛下だった」
「まさか」
リッテンハイム侯が首を横に振った。“事実だ”と吐く。
「ベーネミュンデ侯爵夫人が何度か流産したであろう。あの件で不審に思い密かに調べたらしい。その際我らに子が一人しかおらぬ事で念のために調べたそうだ。先々帝陛下にもベーネミュンデ侯爵夫人にも問題はなかった。流産には別な原因が有ったようだ、教えては貰えなかったがな。だが皮肉な事に我らの妻と娘には異常が検出された。皇后陛下が保有者であったとしか思えぬとの事であった」
疲れた様な表情、疲れた様な声だ。
「どうも分からぬ。皇后陛下は王家に迎え入れられる時点で検査を受けた筈だ。遺伝子に問題が有れば事前に分かったはずだが……」
わしの問いにリッテンハイム侯が首を振った
「先々帝陛下は本来皇帝に就かれる方ではなかった。そのため検査はおざなりなものであったらしい」
溜息が出た。起こり得ぬ事が起きた、そういう事か。
「陛下がグリューネワルト伯爵夫人に子を産ませなかったのはそれが理由ではないかと考えている」
「……」
「伯爵夫人との間にできた子は健常者として生まれてくる。そうなれば後継者はグリューネワルト伯爵夫人の子とせねばならん。だがそれは新たな混乱を生み出すはずだ。それを恐れたのだと思う」
また溜息が出た。
「わしが知らされなかった理由は?」
「陛下が公には知らせるに及ばぬと。娘の遺伝子に異常が有るなどと父親は知りたくないものだと仰せられた。同感だ、私も知りたくはなかった」
「そうだな、その
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