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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百十三話 暗部
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であれば陛下のお許しも得なければならん。そうではないかな、ブラウンシュバイク公?」
「まあ、そうだな。レムシャイド伯、同盟側の意向は分かった。少し検討する時間が必要だ」
『はっ』
レムシャイド伯はほっとしたような表情をしている。通信を切った。

「侯、何か有るのか?」
「……」
「ヘルクスハイマーというのはヘルクスハイマー伯の事だと思うが……」
わしの問い掛けにリッテンハイム侯が太く息を吐いた。そして“ああ、そうだ”と頷く。やはり何か有る、そして侯は何かを知っている。

「あれは何時の事だったかな? ヘルクスハイマー伯がオーディンを逃げ出したのは」
「四百八十三年の暮れの事だ。もう三年が過ぎた」
「そうか、三年か」
もう三年が過ぎたか……。ヘルクスハイマー伯が逃げ出した後、伯の邸には夫人の遺体が有った。死因は毒殺、そして伯もその家族も逃亡中に死んだ。その事でオーディンでは様々な噂が流れた。

「ヘルクスハイマー伯爵夫人を殺したのは私だ。正確にはヘルクスハイマー伯を殺すように指示を出したのだが誤って伯爵夫人を殺す事になった。ヘルクスハイマー伯はそれでオーディンを逃げ出した。本来なら伯だけの死で済むはずだったのだが……」
「……」
リッテンハイム侯の表情は苦い、予想外の結末は不本意だったのだろう。しかし何故殺そうとした?

「恣意ではない、先々帝フリードリヒ四世陛下のお許しを得ての事だ」
「……どういう事だ」
ヘルクスハイマー伯はリッテンハイム侯の取り巻きの一人だった。その伯を陛下のお許しを得て殺そうとした? 私事ではないな、何が有った?

「当時ブラウンシュバイク公爵家とリッテンハイム侯爵家は次の帝位を巡って競い合う関係に有った。ヘルクスハイマー伯は己の勢力伸張のために何とかサビーネを次の女帝にと考えた。そして或る秘密を探り出した」
「秘密?」
リッテンハイム侯が頷いた。

「怒らずに聞いてほしい。ヘルクスハイマー伯はエリザベートの遺伝子を密かに鑑定させたのだ」
「まさか」
馬鹿な、エリザベートは王家の血を引いているのだ。それを許しも無く遺伝子を鑑定させた? 事実なら不敬罪で処罰されるところだ。伯が死ぬことになったのはそれが理由か?

「その結果、エリザベートはX連鎖優性遺伝病を引き起こす因子を保持している事が分かった」
「……それはどういう事だ?」
リッテンハイム侯が辛そうな表情をした。エリザベートの遺伝子に問題があるという事か。

「数学的な確率の問題になるがその因子を持っている女性が妊娠した場合、女児の五十パーセントは発病し男児の五十パーセントは胎内死亡により出生しない。したがって流死産の可能性が多く、生まれてくる子供は女児が男児より二倍は多いという計算になる」
「リッテンハイム侯!
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