第百五十八話 義昭の愚痴その六
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「織田家と共倒れになるのならともかくだ」
「今はそうはならないと」
「そう仰るのですか」
「高田の言う通りだ」
老人の声はある方を見る様にしてこう述べた。
「そのことはな」
「そして出来れば織田だけでなく」
「他の家もだ」
織田と本願寺だけではないというのだ。
「武田、上杉、北条、毛利もだ」
「そして今は織田の下にいる長宗我部や浅井もですな」
「織田と手を結ぶ徳川も」
「色は忌むべきものよ」
老人の声はこれ以上はないまでにそうなった。
「だからだ」
「本願寺を潰すにはですか」
「ここはですか」
「織田だけでなく他の家も巻き込んで」
「そのうえで」
「まとめて潰したい、今の織田の状況では石山を陥としてもまだ他の家を圧するだけのものがある」
だからここは石山以外を攻めさせてもだというのだ。
「織田に石山を中々攻めさせるな」
「石山を攻めると二度と立てぬ様になるまで、ですか」
「疲れさせますか」
「さすれば織田信長は攻めぬ」
その読みからの言葉だった。
「本願寺は生き残る」
「だからですか」
「今はこれまで通り本願寺の中に入り」
「そうして、ですな」
「戦いますか」
「影を出せ」
老人の声はこうも言った。
「これまで通りな」
「畏まりました」
「それでは」
他の声達も答える、それでこのことも決まった。
だがここでだ、一人がいぶかしむ様にしてこう言って来た。
「しかし松永めは」
「今回もですな」
「この会合にも出ないですな」
「それも全くですな」
「織田家に入ったままです」
「何もしようとしませぬ」
「我等のことについては」
それこそ全く、というのだ。
「織田家の中で家臣の一人として動いてはいますが」
「我等の集まりには全く顔を出さないですな」
「まるでいないかの様です」
「一体何を考えているのか」
「訳がわかりませぬ」
「うむ、謎じゃ」
まさにだというのだ。
「あの者はどういうつもりじゃ」
「我等の絆は永遠ですが」
「それも絶対のものですが」
「しかしあ奴は」
「全くですjな」
「余計に顔を出さなくなりました」
彼等の中にだ、そうなったというのだ。
「全く。どういうつもりか」
「以前より奇矯な者でしたが」
「闇の中にいたくないのでしょうか」
「この中に」
「わからぬ。しかし確かに我等の絆は絶対じゃ」
老人の声はこのことは確かだと述べた。
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