第百五十八話 義昭の愚痴その四
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「しかし今石山を陥とさせるよりは」
「ましですか」
「我等にとっては本願寺もまた憎むべき敵です」
高田は本願寺についても忌々しく話す。
「親鸞からの」
「他の宗派と同じく」
「しかし今はです」
「本願寺に今敗れてもらっては困りますか」
「最悪石山御坊さえあれば」
総本山であるその寺さえ、というのだ。
「そこから他の大名家と結びまして」
「天下の戦の元になりますか」
「はい、ですから」
それ故にだというのだ。
「今はまだ置いておきましょう」
「確かにそうですな」
天海が高田のその考えに頷いて答えた。
「それがいいです」
「本願寺の顕如は謀も得意としています、あの者は生き残れば必ず政で織田信長と雌雄を決します」
「政と謀で」
「他の大名、武田や上杉とも結び」
「そういえばです」
ここで天海は高田にこのことを話した。
「幕府がしきりに動いています」
「文を送ってですな」
「そうです、武田にも上杉にも」
「それと同じくです」
「本願寺もですな」
「やがて幕府は倒れます」
高田は幕府については実に素っ気なく述べた。
「最早命運は完全に尽きています」
「はい、そのことは」
「もう否定出来ません」
天海だけでなく崇伝も幕府について言う、彼等は共に幕府に仕え義昭の傍にいるがそこに忠義といったものは全く見られない。
「幕府は最早倒れます」
「それは時間の問題です」
「命の蝋燭の火は消えようとしています」
「今にもです」
消えるというのだ、幕府の命運の火は。
それでだ、こう高田に言うのだ。
「おそらく織田にその動きを知られ」
「そのうえで自棄になるかして兵を挙げます」
「しかしもう幕府に兵はおりません」
「幕臣も皆青い衣に冠を身に着けています」
つまり完全に織田家の者となっているのだ、幕臣達も。義昭は最早完全に一人になってしまっているのだ。気付いていないのは義昭だけだ。
「義昭殿について来る者はどれだけいるか」
「兵を挙げても都の一部で騒いでそれで終わりです」
「織田家の一はたきで全ては終わります」
「幕府は消え去ります」
二人もこう見ていた、幕府は今や都の一角にあるだけだ、都を治めることも出来なくなっているのだ。
「ですからもう」
「幕府の利用価値はなくなります」
「だからこそですか」
「本願寺を」
「そう思っています」
だからこそだと、高田は二人に述べる。
「ここは何としてもです」
「石山御坊だけは残ってもらいますか」
「あの寺だけは」
「そもそもあの寺は恐ろしいまでに堅固です」
石山御坊はただの寺ではないのだ、ではどういった寺かというと。
「まさに城です」
「それも巨大な、ですな」
「堀も壁も堅固な」
「しかも守る
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