シェルター
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、じきに意味がなくなるのだろう。
「俺、閣下を守れなくて……許して……下さいね……」
「……ああ」
もういいのだ。部下も上官も関係なく、誰が誰を守るという事態を超えている。聡明なこの男であれば理解できているはずなのに、フェルナーはなぜか何度も謝罪を繰り返した。オーベルシュタインの意識も朦朧としてくる。フェルナーの言葉の意味を理解するまでに、しばらくの時間を要した。
「閣下に……俺の酸素……あげ……ま……」
部下の言葉が途切れる。荒い呼吸音が弱まっていた。
「フェルナー……」
返答がない。圧し掛かっている頭をそっと揺らすと、カランカランと未開封の携帯酸素がフェルナーの腕から落ちた。
「フェルナー!!」
オーベルシュタインは思わず叫んだ。目が回り、割れんばかりの頭痛に襲われる。喉を塞がれるような苦痛にもがきながら、オーベルシュタインは愕然とした。
馬鹿なことを!
フェルナーの頭を胸の前に抱え込んで、転がり落ちた酸素缶を開封する。意識を失った部下の口元へ当てながら、自分も大きく深呼吸する。失神した人間へ吸入して、どれほど効果があるのかは知らない。挿管しているわけではないから、大した意味はないのかもしれない。だが、願わずにはいられなかった。
頼むから吸ってくれ。
私は、卿を犠牲にして生きたいとは思っていない!
自分を守る必要などないと、言葉にしてやれば良かった。後悔の念が、僅かに残る理性を苛む。いざとなれば上官を殺してでも生きのびようとする男ではなかったか?不遜な態度で余裕綽々の笑みを浮かべる部下の顔が脳裏に浮かぶ。自己犠牲などという言葉が、もっとも不似合いな人間ではなかっただろうか。それを今更になって宗旨替えするとは、何を血迷ったのか。
様々な思いが脳裏を駆け巡り、部下の身体をぎゅっと抱きしめた途端、激しい息苦しさと眩暈に襲われ、オーベルシュタインの意識もそこで途切れた。
次に二名が目を覚ましたのは、軍病院のベッドの上であった。上官の方が数日早く職務へ復帰し、遅れて復帰してきた部下へ向かって一言、「愚か者」という労いの言葉がかけられたという。今回の軍務尚書暗殺未遂事件も、これまでと同様、公式発表はなされなかった。
(Ende)
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