シェルター
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痛に見舞われていた。
「閣下……」
安否を確認する部下の声が聞こえた。オーベルシュタインが、視線のみを僅かに動かして無事を伝える。部下の額にも脂汗が浮かんでいた。
「俺たち……このまま……死ぬんでしょうか……ね」
いつもは突き刺さるような翡翠の目が、ぼんやりと潤んでいる。体を動かすのも辛いのだろう、首だけが軽くオーベルシュタインの方を向いているだけだった。
「予言は……できぬが……最大限の生き残る努力を……するしかない」
言葉を発するだけで激しい窒息感を覚える。オーベルシュタインは携帯酸素を口元へ押しあてた。
死を予感する。
このようなところで?
皇帝を守るでもなく、戦場でさえなく、視察に赴いた無人の訓練施設で、部下と二人で命のともしびを削られていく。
自分の命など惜しんではいない。
やりたいことはまだあった。しかし、新体制の樹立が成った今、自分のような強烈な個性のは必要ない。
王朝黎明期の軍務尚書という任であれば、他の者でも十分に堪えうるだろう。
気がかりなのは、横にいる若者であった。
軍人である以上、危険と隣り合わせであるのは当然だ。
上官を狙ったテロに巻き込まれるのもやむを得ない。
だが、このような状況で命の欠片を削ぎ落とされていくのを見るのは、いかにオーベルシュタインといえども耐えがたかった。
できることならば助けたい。
手のひらに、じんわりと汗がにじんでいた。
「ねえ……閣下……」
苦しげなフェルナーの声が自分を呼ぶ。オーベルシュタインは重たい体を叱咤しながら顔を上げた。
「どうした」
こちらへ首を伸ばすフェルナーを正面から見据える。あれほど敏捷で鋭気にに富んだ部下の顔から、驚くほど生気が失われており、オーベルシュタインは言葉を失った。おそらく自分も似たような状況ではあろうが。
「ちょっと、肩……貸してもらえ……ませんか」
そう言いながら、全身を引きずるように近づいてくる。オーベルシュタインも渾身の力を振り絞って、フェルナーの横へと体を移した。横に並んだ部下の頭が、オーベルシュタインの肩にもたれかかる。はあはあという荒い呼吸だけが鼓膜を振動させた。
本当はできるだけ離れていたほうが良いとか、立ち上がって高所の酸素を取り入れた方が良いといった思考も頭をよぎったが、既に立ち上がる気力も体力もなく、説明するだけの余裕もなかった。
体を動かしたせいか息苦しさが増し、オーベルシュタインは2本目の携帯酸素を開封した。吸ったところで短時間のうちに救助がなければ意味を成さない。気休めにしかならないという自分の言葉が、真実になろうとしているのだ。
「閣下」
と、再びフェルナーの声が聞こえる。もう振り向く気力さえなかった。
「ああ……」
最低限の返答で無事を告げる。このやり取りにも
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