シェルター
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して、上官の危機に自分は何一つできていないではないか。設計士が得意げに語っていた堅牢な要塞とも言えるシェルターが、軍務尚書への凶器になっているのだ。なぜ、違和感を覚えた時点で視察を中止しなかったのか。フェルナーの頭には後悔の二文字しか浮かんでこない。あの時点で理由をつけて中止を言い渡せば、何かリアクションがあったかもしれないが、屋外であれば対処のしようもあったはずだ。それに、ヴェストファルらもいた。
「そういえば、護衛隊が戻ってくる様子もありませんね」
思い出したようにフェルナーが呟く。
「これが計画的な行為だとすれば、彼らもどこかで足止めされているのだろう」
膝を立てて座るオーベルシュタインは、凛とした姿勢を崩さずに、こちらも呟くように応じた。
「ともかく、無駄な体力を浪費せぬ方が良い。眠ってしまうのもひとつの手段だろうな」
そう付け加えると、自身も軽く目を閉じた。緊張状態のフェルナーはさすがに眠る気にもならず、さりとて目を開けていても良い思案が浮かぶわけでもなく、半ば上官に言われるがまま、翡翠の瞳を瞼の裏へと隠した。
今日は午後いっぱい視察の予定であった。多少帰りが遅くなったところで、軍務省に残るシュルツ秘書官の方でも不審に思わないだろう。様々なことが災いしているのだ。
考えるだけで、気分まで悪くなる。
ああ、それにしても寒い……。
ふと目を開けて、フェルナーは自分が眠りこんでいたことに気付いた。あれほど眠れないと思っていたはずだが、自分はやはり神経の太い方なのだろうと苦笑する。欠伸をひとつすると、微かではあるが酸素の薄さを感じた。フェルナーの動きに気付いたのか、オーベルシュタインもゆっくりと目を開いた。こちらは欠伸こそしないが、不快そうに眉間に皺が寄っている。
「頭痛や吐き気はないか」
上官の問いに、否と答える。両者ともに軍人としての専門教育を受けて来た身である。酸素欠乏症に対する知識はあった。オーベルシュタインは「そうか」と肯くと、それ以上は何も口にしなかった。フェルナーは右手で拳を作ると、コツンと床を叩いた。分厚い隔壁まで這い寄ると、ドンドンと叩いてみる。無駄だと分かってはいるが、外の状況も不明である。こちらの状態が気付いていない可能性も皆無ではあるまい。誰かに知らせられればという一心であったが、十数回叩いたところで腕を下ろした。
この隔壁の先には、更に分厚い装甲扉があるのだ。この音はその扉さえ越えることはできないだろう。フェルナーは元いた場所へ戻ると、再び膝を立てて座り直した。上官の横顔を眺めると、また眠ってしまったのか、両の瞼は閉ざされていた。
それから三時間ほども経過した頃だろうか。オーベルシュタインは顕著な息苦しさで目を覚ました。肺が十分に膨らまず、浅い呼吸だけで意識を保ち、ひどい頭
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