シェルター
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「閣下!」
呼びかけるまでもなく、オーベルシュタインも現状を認識していた。シェルター内をさらに小さく仕切る隔壁が下りていたのである。
「落ちつけ」
日頃自分の前でさえ歪んだことのない部下の顔が、緊張と動揺で強張っているのを見て、オーベルシュタインは低い声でたしなめた。
「ヴェストファルらが外にいるのだ。事故であれ故意であれ、いずれ助けが来よう」
腹をくくったのか元々危機感が欠乏しているのか、あるいは己の生命への頓着がないのか、帝国の重鎮は面白くもなさそうにそれだけ言って口を閉ざす。
わずか8平方メートルの空間で、二人は互いの息遣いだけを聞きながら時の経つのを待った。
「閣下は、事故だとお考えですか?」
外界の音も光も遮断された部屋で、今やるべきことは上官の無事を確認し続けることだけだ。フェルナーはそう認識して、オーベルシュタインへぼそりと言葉を投げた。オーベルシュタインの方はその意図を察した様子でもなかったが、他にすべきこともないためか、呟くような答えが返って来た。
「装甲扉も隔壁も、音もなく閉まった。本来鳴るべき警告音が消されていたと見るべきであろう」
上官の指摘は的を射ていた。まったく明らかに人為的なことだ。フェルナーは肯いて更に続けた。
「何者の仕業でしょうか」
フェルナーの問いに、オーベルシュタインは初めてファイルから目を上げた。軽く閉ざされた瞼から、その義眼の揺らめきは窺えない。やがてゆっくりと目を開けると、小さく息を吐いた。
「憶測にしかならぬが、恐らくは軍事設備管理局長と名乗る男が関与しているであろうな」
憶測と言いながらも断定に近い響きを持っている。フェルナーは僅かに目を見開いて、その真意を問いただした。この上官であれば、フェルナーが初めに感じた違和感の正体を、あるいは言い当てるかもしれない。
「青白い肌だ」
オーベルシュタインはそこで言葉を切って息を継ぐと、部下の反応を見やりながら続けた。
「工部尚書であるシルヴァーベルヒでさえ、たびたび新首都建設現場へ足を運ぶと聞く。管理責任者であれば、その職務の半分は現場にあるべきであろう。にもかかわらず、陽にさらされたことのないような青白い肌をしていたあの男は、彼の名を騙る別人だ」
ああ、その通りだ。フェルナーは疑問が氷解した気分になった。彼ら三人の顔を見て覚えた違和感は、青白い顔に不釣り合いなヘルメットをかぶった管理責任者の男だったのだ。それを容易く見抜いた上官の洞察力に、フェルナーは改めてぞくりとした寒気を覚えた。
いや、違う……
「閣下、寒くなっていませんか」
フェルナーは無意識に両腕を抱え込むようにしてさすった。明らかに室温が低下してきているように感じる。オーベルシュタインは相変わらず顔色一つ変えずに肯いた。
「先ほどから空調も止まっているよ
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