シェルター
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士の説明が終わるや否や、管理局長が腕を大きく振り上げ自己の存在を主張した。その時である。
地上方面で爆発音が響いた。ヴェストファル中佐が音の方向へと視線をやる。あからさまに殺気立ったり動き回ったりしないのは、さすがプロというべきであろう。
「遠いな」
この場では最高位であるオーベルシュタインが、常と変らぬ声で呟くと、フェルナーとヴェストファルが同意するように肯いた。
「おそらくこの施設そのものではないでしょう」
平常心を失わない一行の中に、しかしそうでない者も複数存在した。
「わ、私は外の様子を見て参ります!」
管理局長と現場責任者が駆け出し、設計士が慌てて追いかけていく。様子を見るというのは口実で、逃げ出したいという本音があからさまに感じられた。本来であれば賓客を置いて立ち去るなど、あり得べからざる行為である。
フェルナーが呆れたように息を吐いて、
「我々も出ますか」
と上官の表情を窺った。
オーベルシュタインは乏しい顔面の筋肉を僅かに動かして、諾と答えた。
「陽動という可能性も考慮に入れるべきだな」
そう付け加えるて、ヴェストファル中佐率いる護衛隊に通路の安全確認を命じた。するとすぐさま、フェルナーから反論がある。
「おっしゃる通り陽動であれば、護衛隊は閣下のおそばにいた方がよろしいでしょう」
オーベルシュタインは何の感情も湛えない機械の目で、部下の翡翠の瞳を睨みつけると、小さくかぶりを振った。
「卿がいれば十分であろう」
上官の返答を聞いて、ヴェストファルら数名の護衛隊が駆け出して行く。フェルナーは彼らの遠ざかる足音を聞きながら、上官へ不敵な笑みを向けた。
「ずいぶんと小官を買って下さっているのですね」
何しろプロの護衛隊がいなくても、フェルナー一人で大丈夫だと言ってのけたのだ。それだけ信頼していると口に出したようなものだと、フェルナーは思う。
しかし当のオーベルシュタインは、部下の軽口に沈黙を保ったまま、やや表情を険しくさせた。もっともフェルナーの方でも、はなから返答など期待していなかったから、小さく笑うだけにとどめた。
「何があっても守りますよ」とは、決して口に出さなかったし、その必要性さえ感じなかった。
ひとつの備品もない会議室兼シェルターの殺風景な空間は、何やらうすら寒さを感じさせる。オーベルシュタインは強制給排気装置らしい大型の機械と、装甲の厚い壁をぐるりと眺めると、諦めたように設計図を挟んだファイルへと目を落とした。フェルナーはそんな上官の背中に注意を向けている。
「閣下、我々も出口の方へ……」
言いかけて、言葉が切れた。
先ほどまで視線の先にあった分厚い装甲扉が、フェルナーの視界から消失していたのである。もっと正確に言うならば、別の障害物によって扉が視界に入らない状態になっていたのだ。
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