シェルター
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立ててロックが解除され、その大きさからは意外に思えるほど静かに、扉が中央から上下左右へと別れていった。大仰で分厚い壁のような扉である。
「ここは、平時は会議室など多目的な場となる予定ですが、もうひとつ、地下という条件を活かした設備がございます」
当ててみろとでも言うような得意げな目で、管理局長はフェルナーに向かって浅ましい笑みを浮かべた。フェルナーが卒なく困惑してみせると、その笑みは更に満足げなそれに変わって、ぐんと胸を突き出した。そして大儀そうに息を吸い込むと、
「この部屋は何と、非常時には大型シェルターとしても機能するようになっているのです」
オペラでも歌い出すのではないかと思うほど、芝居がかった管理局長の声が、殺風景な地下シェルターに響き渡る。感嘆の声が上がるのを待つかのような沈黙。だが誰ひとり彼の期待に応える者はなく、管理局長は何とも言えない笑みを張り付かせたまま天を仰いだ。
無論、オーベルシュタインもフェルナーも事前に設計図には目を通している。当然、ここがシェルターの役割になることも承知していた。ゆえに初めから驚きなどしなかったのだが、護衛隊長ヴェストファルやその部下たちも、特別そのようなことに動じる人間ではなかったため、結果として反応する者がいなかったのである。
朗々とした語り口から一転して、しょぼくれた狸のような風体になった管理局長を気遣わしげに見やりながら、痩身の設計士が言葉を繋いだ。
「では、具体的なご説明をいたしましょう。まずこの部屋は地下65メートルの位置にございます。約10m×6m、高さ約3mの半ドーム型になっており、装甲扉を閉鎖することで完全な密閉空間になります。濾過機能を持つ強制給排気装置により、有害ガスなどを完全にシャットアウトできる仕様です」
ほう、と、今度こそ感嘆の息が漏れる。管理局長がちらりと忌々しげな顔をしたが、やはり技師の説明には叶わないと理解しているのか、口を開こうとはしなかった。
「さらに波状攻撃への対応として、このシェルター内部にも隔壁を設けております。……ちょうどこのあたりの、約4m×2mだけの狭いスペースで仕切られることになります」
最終的な要人護衛用とでもいうところであろう。外壁や装甲扉、隔壁の厚みや強度などの説明を聞いて、オーベルシュタインはちらりとフェルナーへ視線を投げかけた。今のところ、これといった変事は起こっていない。無論、起こらないに越したことはないのだが、こういった状況でのフェルナーの勘がかなり鋭いことを、この軍務尚書は知っていたのだ。あまり公表されていないが、王朝の影の部分を担うオーベルシュタインが、襲撃を受けることは珍しくなく、かつては実戦部隊を率い、現在では潜入調査も手掛けるフェルナーの嗅覚に、たびたび救われていたのである。
「では、屋外演習場へご案内します」
設計
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