弓を引く
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上は力が入らぬ。引き分けできぬ、これ以上はないという最高点の瞬間。自然と矢が放たれる。
離れ。
馬手の抑えをなくし、矢が放たれる。
この瞬間、緩んではいけない。馬手の緩みはブレとなり、その弦は顔を叩き矢は狙いを外れる。左手の緩みはブレとなり、左の腕を叩き矢の狙いを大きくずらす。
されど緩まず離れれば矢は線となり飛ぶ。
放たれた矢は空を切り闇の中を進む。風切り音を立て、瞬く間に矢は的へと吸い込まれていった。
残心。
矢の行方を見つつも力を抜いてはならない。気を張ったまま呼吸に合わせ気を緩め、向けていた顔を前へと戻す。そして両の拳を腰骨へと戻す。
弓の裏筈を静かに床に付けて左手の力を抜き、弓返りして動いた弦を元に戻してから床から持ち上げる。
そして二本目を少女は番えていく。
弓道における的中はそれが結果ではない。求める成果ではない。
正しい八節を積み上げれば必然と生まれるものでしかない。
「当てる」のではなく「当たる」。
引く中でそのイメージが自分の中で出来上がっていくのだ。
的中を狙うのではない。正しい八節を行い、その副産物として的中が生まれるのだ。
弦の音が夜の闇に響く。矢の空を切る音が雪に響く。
的紙を破る四度目の音が鳴る。
矢は四本、全てが的に刺さっていた。皆中である。
寒さに震える体を抱きしめつつ、少女は小さく握り拳のガッツポーズを作った。
「っよし」
技術は確かなれど、狙いを持ってしまう精神は年相応の少女であった。
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