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ノヴァの箱舟―The Ark of Nova―
#2『教会』
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 かつん、かつん、と、靴の音を廊下に響かせて、《教皇》が歩く。向かう先は、《王都》の街を睥睨できる大バルコニー。その下の大庭園に、一カ月に一回の定礼を聞くべく、無数の民衆たちが集っている。

 アーチゲートをくぐると、バルコニーに出る。とたんに、人工太陽の、人の手による発明とは思えないほどのすがすがしい光がスワイを照らす。空気も、よっぽど《教会》内部より澄んでいる。まぁ、屋外なのだから当たり前といえば当たり前なのだが……。

 バルコニーの下を見ると、やはり大量に民衆が集まっているようだった。その数は前回の定礼のときよりわずかに多くなった気がする。

 《教皇》が手を上げると、歓声が爆発した。《教皇》の顔からはあの慇懃無礼な嗤みは消え、さわやかな笑顔が浮かんでいた。

 これが、世界を支配する組織の首長、《救世主(メサイア)》たる男、アドミナクド・セント・デウシバーリ・ミゼレに対する、民衆のイメージそのものなのである。

 スワイは収まることを知らない歓声の中、誰にも気づかれないように、小さくため息をついた。

 ――――なぜこの男が《教皇》なのだ、と。

 ――――どうしてここで讃えられているのは、本当の《クド》ではないのだ、と。


 
 ***



「ねぇ見て、あれ、キュレイ様じゃない?」
「ホントだ!うわぁ、写真で見るより凛々しいお姿……」
「あ、フェラール様もいらっしゃるわ!」
「キャ―――!小さくて可愛い〜?」


 街角で自分たちを振り返る少女たちが、口々に黄色い歓声を上げる。それを聞きながら、実質《教会》最高機関である《七星司祭(ガァト)》、その第五席、《狂科学者(マッドサイエンサー)》フェラール・ゾレイはため息をついた。

「何故だ……何故『可愛い』なのだ……なぜ『小さくて可愛い』なのだ……!!」

 女たちからの歓声が嫌なわけではない。女たちの話題に上るのはなかなか気分のいいことであるし、こういう町中で、いつもの白衣ではなく、ライトグリーンと白を基調としたコート姿でも見分けてもらえることも嬉しい事である。

 問題は、自分への評価が基本『小さくて可愛い』に固定されていることだ。背丈が同年代の男と比べて低いことを割と気にしているフェラールとしては、もっと『秀才っぽい』とか『科学者としての威厳がある』とか、そう言った評価が欲しいのだ。『小さくて可愛い』評価は《七星司祭(ガァト)》最年少のコーリングにでもつけておけばよいのだ。

 だが、話題に上るのは大抵が背丈の話だけ。それも、隣をあるく憎き後輩と比べられてのことだ。

「事実だろ」
「うるせー、俺の方が年上なのに、なんでお前の方が評価高いんだ……!」
「知るか。あと年齢は関係ないだろ」
「黙れ
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