#2『教会』
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称《執務室モード》である。その中央を占める机の上には、一冊の本が置かれていた。いや、正確には浮いていた。
銀色の装飾が施された、分厚いその本は、青い燐光を纏ってふわふわと浮遊する。内包された膨大な魔力と神気があふれ出し、周囲の重力やエネルギーを混乱させているのだ。
名を、《禁書》No.002、《唯一神/偽》。現状人間が手にしており、その存在が知られている《禁書》の中では最強と言われる代物である。
《禁書》と言うのは、《グリモワール》とも呼ばれる、魔力や神気を帯びたせいで、それ自体が意志をもったり、所有者を破滅させてしまったりする、《力ある本》のことである。《教会》の高官ですら、全員がこれを与えられているわけではないという、非常に貴重な存在である。
《唯一神/偽》は、その中で最初に発見された存在で、本自体が意志をもつタイプの《禁書》である。
もっとも、その意識の出現方法は特異であるが……。
クドが《禁書》を手に取る、直後、彼の体を神気の波動が包み込む。びくん、と彼の体が痙攣し――――振り向いたとき、その右目は、本来の金色ではなく、紅蓮色へと変化していた。同時に、その口にはいつものほんわりとした笑顔ではなく、冷徹で慇懃無礼な嗤みが浮かんでいる。さらには髪の毛の質量がふえ、飾りがその姿を消す。
神気はそのまま質量をもち、眼の様な模様が描かれた、青いローブを出現させる。飾りの消滅と共に下ろされた、ポニーテール調だった白髪は、大きな三つ編みの様な形状にまとめられる。頭には筒状の儀礼帽。中央に《教会》の象徴でもある、金色の十字が刺しゅうされている。
こちらを振り返ったクドは、にやり、と笑って、スワイに言った。
「さぁ、行きましょうか?」
その声には、クドの声の上に別の存在の声がかぶっているかのように、奇妙なノイズが…微弱ではあれど…混じっていた。
「……」
沈黙で答えるスワイ。クドは興味をなくした様にふいっ、と部屋の外を向くと、そちらに向かって歩き出した。その右手には、大切そうに《禁書》が抱えられていた。
――――《彼》は、スワイの知っているクドとは違う。《彼》こそが人々の知る『アドミナクド・セント・デウシバーリ・ミゼレ』なのだ。スワイが世話を焼いてやまない、ぐうたらで大食いな青年、クド・ミゼレではない。
《彼》の事情を知る数少ない存在は、クドの《教皇》としての人格のことを《リンドヴルム》と呼ぶ。ただ、スワイは長い時間をクドと共に過ごしているにも関わらず、その詳しい事情を知らない。そのことが歯がゆくもあり、知ることが恐ろしくもあり――――。
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