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乱世の確率事象改変
瞬刻の平穏
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評も上がります。袁家に大打撃を与えられて且つ有能な将も手に入れられるとなれば、これ以上の利は無いと思いますが……」

 浮かぶのは朱里の行おうとしている事柄。彼女が曹操を引き込む為に何を考えて動いているかを、雛里は長い時間一緒に過ごしてきた為に看破していた。というよりも、己が思惑と重なると信じていた。
 ただ、理想と現実を天秤にかけさせ最後にどちらを選ぶかで決まる一番重要な選択。それについて、雛里が考えていた時機はもっと後であったのだが、その大前提を揺るがす波紋を与えられて困惑に染まる思考。

「ああ、全く以ってその通りだ。間違いなく王として、乱世の先を見据えて動くならその判断は正しい。大敵である袁紹軍に大打撃を与える好機となるだろう。
 でもな、それは普通の王だったら、の話なんだよ。あのどうしようも無く強大な覇王なら……きっと違う道を示す事もある」

 きゅっと腰に抱きつく手を強めて、雛里は思考に潜っていく。それでも、彼の考えている事は分からなかった。それは一重に、この時代にしては異質な価値観と発想からくる戦略思考を持ったまま、理不尽と犠牲を呑み込んで進み続けてきた秋斗の方が気付きやすいモノであったが故に。

「まあ、俺の下らない予想程度でしか無いんだけどな。曹操が取る選択肢の中にもう一つ追加出来るんだよ。俺なら間違いなくそうする。俺が気付いてるって事は頭の良い曹操は必ず気付いてる。こっちの方が乱世を進む内に利が大きくなるから」

 そう言って秋斗は雛里の腕を外して振り返り、

「いいか? 曹操は――――」

 膝を折って彼女の耳元に口を近づけ、己が考えを囁いた。最後に秋斗がどうするつもりかを苦笑と共に付け足して。
 目を見開き、彼女は恐怖に打ち震える。それを聞いてしまうと、もはやそれが行われるとしか思えなかった。そして行われた後の選択がどうであろうと、彼がどうなるかも理解してしまった。
 途端に溢れんばかりの涙を目に溜めて、彼の首に腕を回してぎゅっと抱きついた。

「でもっ……桃香様がそれを選ぶとは思えませんっ」

 飛び跳ねるように彼の耳元で、自分がずっと抱えていた事を言う。
 もう彼女は、これ以上彼が自分を追い詰めていく事に耐えられなかった。何処までも桃香の事を歪んだまま信じ過ぎている秋斗を助けたかった。
 ゆっくりと頭を撫でつけて、小さな子供をあやすように、空いた手で一定のリズムを刻んで雛里の背中を叩きながら、秋斗は優しく微笑んだ。

「大丈夫、桃香はちゃんと選ぶさ。あいつは理想より現実を選んで俺達と同じモノを目指すようになる。何も心配はいらないんだ。桃香は俺みたいに先の世の為に切り捨てたんだから。先の世の平穏を願うというのなら行き着く所は同じに出来るんだ」

 茫然と、雛里は零れる涙をそのま
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