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追憶は緋の薫り
ずっとお待ちしておりました
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ガラスの外は相変わらずの雨で、花壇に咲く色鮮やかな植物たちが健気にもそれを受けている姿はまるで何かに怯えているように見えた。


「なぁ……東雲(しののめ)


 どうせこの雨音だ彼には届かない、そう高をくくっていた紫紺(しこん)に今まで聞いたこともない冷たい声色が頭から浴びせられた。

 視線は窓の外を向いたまま、再び動物の発するありとあらゆる臭いの混じった部室に戻すことを躊躇われた。

 動悸はバグバグうるさく響き指先でさえ動かすのは憚られる。


「…………はい?」


 誰だ、その言葉を飲み込み代わりに唇を切ったのは搾り出したような声だった。


「お前さぁ、最近なんで俺のことを避けているんだ?」


「さっ、避けてなんて……」


 否定しようとして言葉が続かなかったのは彼にも身に覚えがあったからだ。

 確かにここ最近、青野に対するものはあからさまに「避けている」を指していた。

 校内を歩いている時に目聡く発見してわざと遠回りして教室に戻ったり、授業でどうしても距離を縮めてしまいそうな時はサクサクとことを済ませて対処して来た。

 だが、普通こちらにその気がなくても相手は傷ついているはず、特に理由らしきものが見つからなければ尚の事ここは素直にそれを認めるべきだろう。

 生唾を飲み下し恐る恐る視線を戻すが彼は怒るどころかどうした?と、笑っている。

 良かったと、安堵したのも束の間だった。

 いきなり紫紺(しこん)の年相応の青年よりも細い首に骨で角ばった両手を回された瞬間、脳裏に一週間前夢で見たあの光景がフラッシュバックする。

 あの時首を絞められたのは自分ではないはずなのにどうしてか感覚が、触覚が、あの犯人を連想させた。


「なっ?!……何をっ」


 気持ちが悪い、今にも吐き出しそうになるのを押さえて眉を寄せて苦笑してみる。

 あれはただの夢だ、きっといつものように生徒をからかっているだけなんだと、必死に湧き上がる肯定を打ち消す。

 ……だが、現実はそんな彼を嘲笑った。

 回された両手は豪雨で冷え切っている大気と反して熱い。

 本気だ、みるみる身体中から血の気が失せてゆくのがわかる。

 意識を無視してガクガクと震え出す自分が情けなくて涙が込み上げてきた。


「そうしてるとやっぱり女子にしか見えないよなぁ。東雲(しののめ)が男じゃなきゃ結構俺の好みなんだが…」


「どこをどうして漏れたのか知らないがお前をこのまま生かしとくとこっちのリスクが高くなるんでな。諦めて成仏しろよ」


 何て理不尽で身勝手な都合だ。

 しかし、そう思った所でこの状況が変わる訳でもなく、まるで首の脂肪を楽しむかのよ
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