ずっとお待ちしておりました
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(あおの)先生っ!」
いつの間に入ってきたのだろう、右肩を掴まれ反射的に振り返ったその先にはお得意のあの爽やか過ぎる笑顔があった。
あまりのことで危うく手にしたスポイトを落としそうになったがどうにかその場で踏みとどまる。
今は自分独りではない。
左手の上ではまるで母親にねだるが如く甲高く鳴く一羽のひな鳥がいる。
昔から動物に懐かれやすく無責任にもエサやりなどをして可愛がっていたのだが、いつも何らかの形で自分の前からいなくなることも多かった。
子供の頃はそれを嘆いたり時にはそれを罵倒したりもしたが彼らの幸せを思うとそれ以上何も言えなかった。
そうして高等部に進学してから立ち上げたのがこの小動物部だ。
部とは言っても今のところ部員は自分しかいないし、活動内容もウサギや鶏などの飼育係と大差ない。
強いて上げるとしたら張り紙を校内や学院中の掲示板に張ったりして積極的に飼い主を探すことくらいだろう。
部の申請を提出した当初は予想通り突き返されそうになったが、当時他のクラスの副担任だった彼が何とか説得して今に至る。
「しっかし、安逸を第一に考えるお前がこうしてケガした鳥とかの世話をしているなんて意外だよな」
スポイトの中の水を飲ませ終えてもまだ元気に鳴くひな鳥を見て意味深に笑う。
自分でも変だと思う。
ただあの時は変わるのを待つのがとても嫌でその勢いで突っ走ったのではないかと反省している。
「先生には野球部との掛け持ちにさせてしまって……すみませんっ」
「何言ってるんだ!学生時代の内にいろんなことを経験しておくべきだぞ。いざ社会に出た時に必ず役に立つ日が来る」
「そっ、そうですか?」
落とさないように気をつけて近所のスーパーの裏から持ってきたダンボールの中にある巣に戻す。
まだ小さなひなには大きすぎて一人ではそこから出ることは叶わないが、いつか成鳥のように大空を羽ばたく日が来るだろう。
「ところでどうしたんですか、部室に来て。青野先生はあくまで野球部がメインでしょ」
申請当初の契約ではそう固く念を押されたのを良く覚えている。
白梅学院大学高等部は甲子園に何度も出場する強豪校でも有名で何十年前に一度優勝しているらしく、校長室前のガラスケースには今も尚ギラギラ輝くトロフィーを見ることが出来る。
「そのことなら案ずるな。あいつらなら校内のどこかでヘタレている頃だろうからな」
意味もなくこちらにウィンクを投げ掛けた。
野球部員たちに何を命じたのだろう、この男は。
はぁと、とりあえずその場凌ぎの生返事を口にして置く。
窓
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