ずっとお待ちしておりました
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いたようで、ありとあらゆる理由で教室からどこかに姿を消していたクラスメートたちが教科書を机に広げたり手にしたりしてざわめいている。
右耳のすぐ横から聞こえてきた声にため息を吐き、瞳だけを動かす。
「……1,050円になります」
「ん〜、そっか。じゃあ、今度Cコースを奢ってやるよ、ジュース付きで」
「交渉成立」
机に広げた教科書をそのまま右にスライドさせペンの先でちょんちょんと軽く叩いた。
桜井太一とは小等部からの付き合いで、最早腐れ縁といっても過言ではない。
紫紺が簡潔に済ませようとする時は必ず気分か体調が優れない場合が多い。
太一はそれをよく知っていた。
『熱があるならそう言えよ。…先生だって鬼じゃねぇんだし』
『……いやだ。そんなの自分に負けているみたいだ』
「何笑っているんだよ?…………勃ったか?」
ある日に交わされた何気ない会話を思い出し、どうやら知らず知らずの内に口元が緩んでいたらしい。
ノートに走らせるペンの動きが止まったのをどうやら教科書に印刷されてある胸の谷間までザックリ開けたノンスリーブ姿のグラマーな女性を見ていると疑っているようだ。
その顔はみるみる冷たいものへと変わってゆくが焦りの色はなく、逆にいたずら心が太一を嫌らしくニヤけさせた。
「心配すんなって。俺はお前以外興味ないからさ」
「あっそ」
爆弾発言にも拘らず言われた本人もまたクラスメートでさえ動じる様子はなく、各々限られた時間の中暗記するのに精一杯なのか教室のどこかでは誰かが授業中ノートに書いたらしい訳を朗読する声が響いている。
彼らは慣れていた。
この白梅学院は幼稚部から大学院まであるのでほとんどの生徒はそのままエスカレーター式に進学していく。
だからであろうか複雑な情報が網目状のように張り巡らされ、新参者にはなかなか踏み込められない壁が無意識の内に距離を置いていた。
倉皇している中、五分の時はあっという間に流れテストが配られる頃には予報よりも早い雨が窓の外を濡らし始め、その勢いは次第に激しいものへと変わり放課後になると掃除を終えた帰宅部の生徒はいそいそと家路に着いた。
一階の空き教室からはそれとは別にチッチと鳥のような鳴き声が響き、雨音で満たされた校舎にその名残を残さず消えてゆく。
世に名だたる進学校とは言え少子化などの問題は影を落としていて、ほんの十年程前にはどこの教室もひしめいていたそうだが今では教職員たちの追憶の中でしかいない。
「大分、元気になったなぁ」
「あっ、青野
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