第一物語・後半-日来独立編-
第七十章 竜神《2》
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も竜神には無い。
たかが人一人に姿を見せるという労を使うことが、セーランは異常なことのように思えた。
「それは後で答えよう。まずは貴様を現実空間から引っ張り出してきた理由を話そう」
「うん、こっちの質問後回しなのね……」
さすがは神様と言ったところか。
ふ、と鼻で笑うような音を立てた竜神が退屈ゆえか、長いその身体を一回動かし、姿勢を変える。
風が起こり、一瞬の強風。
衣服や髪が揺れ、別の意味で身構えた意味があった。
「ここならばゆっくりと話しが出来ると思ってな」
強風がぴたりと止む頃に聞こえた竜神の声。
まぶたを閉じ、開ける一連の動作なかでセーランの眼前。
竜神の顔があった。
間近で見ると迫力は圧倒的で、数メートルの高さはあるだろうか。
いきなり来たものだから、反射で後ろへ下がろうとするも足が縺れて尻餅をついた。
「――つうう! 急に近付くなよ、びっくりするだろ」
「心配しなくとも取って食おうなぞせぬ」
「分かってるけど大き過ぎて怖いんだわ。眼とか合った日には身体ぶるぶる震えるね」
言いつつもセーランは真っ直ぐ、間近に見える竜神の眼を直視していた。
言葉とは裏腹な態度。
尻餅をついたままの状態で、距離を変えずに竜神は言う。
「ここは現実空間との時間の流れが違う。人間で言う一年が十倍、百倍早く流れるが、神によってそれは個々に違う。いずれまた訪れることになるだろう」
「ゆっくり話したいからって理由で連れてこられたわけだ。んで、俺の質問には答えてくれるのか?」
「姿を現した理由か。
特に意味など無いが、上げるとするならば己の存在を憶えていてほしかった。と言ったところだ」
それは何処か悲しげな言葉に思え、神という風格が削がれてしまいそうな気がした。
意味も無く姿を現した竜神。
真意はきっと教えてはくれない。
竜神自身が人に甘えることを嫌っており、加え人という弱い存在に助けを求めること自体屈辱なのだ。
宿り主がいなければ存在出来無い自分に対し、怒りの念を抱いている筈。
「神は人には甘えない。俺はそう教えられてきた」
「己にも分からん、何故だろうな。微かに見える未来、そこに己が存在しないがために取った行動なのかもしれんな」
「未来に存在しない? どういうことだよ」
竜神は顔を横に振った。
「分かっているならば苦労はしない。ただそこに己が存在していない。分かるのはそこまでだ」
神には未来が分かる。
だがそれははっきりとしない場合が多く、未来の多くを知っている神は数少ない。
きっと竜神、もしかしたら神も自身という存在が消えることに恐怖するのかもしれない。
人類にとって絶対の存在である神。
セーラン自身も、弱音に近いことを吐く神は聞いたことも見たことも
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