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打球は快音響かせて
高校2年
第十二話 2度目の春
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行った。浅海はふぅーと息をつき、椅子の背もたれに体を預けた。

(まぁ…私にアピールしても、結局決定権はあの男にあるんだけれど…)

浅海としてはコーチとして、それほど周りに気を配る事もなく無邪気に「勝つぞ!勝つぞ!」と連呼している乙黒の目が届かない所をカバーしようとしているつもりだが、しかし、余りにも出過ぎた真似をし過ぎているかもしれないと最近思い出した。「2人目の監督」かのように振舞って、期待させて、でも結局、自分自身はコーチ止まり。自分は乙黒のように甲子園球児でもなければ、男でもないし、監督でもない。期待に応えるだけの権力も無いのに、今もこうやって、乙黒の誘いなんかに乗ってここまでやって来たほど素直な翼に期待させてしまった。それは罪な事では無いのだろうか?

(…でもねぇ、誰にも認められずに2年半野球やるなんて、それも酷よねぇ。あの男がレギュラーにしか興味が無いのなら、だったら私が補欠を見て、評価してあげなくちゃ…)

浅海は体をバッと起こして、両手でパンパンと自分の顔を叩いた。

(…競争を煽る分、負けた子のケアの責任は、大人にある…)

浅海の顔に、いつもの鋭さが戻った。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「主将か…頑張ろう」

浅海の部屋を出て、自室に戻ろうと廊下の角を横切ったその時、翼の前に突然、人の姿が現れた。

「わっ!」

不意打ちに仰天して尻餅をついた翼。
それを見下ろしているのは、ニヤニヤと笑みを浮かべている枡田だった。その後ろには、枡田より遥かに大きな体をした鷹合がオーバーラップしている。鷹合も満面の笑みを浮かべていた。

「ちょっとちょっと〜、浮気はいけませんよぉ〜!彼女もおるのに、奈緒ちゃんに個人授業してもらっちゃってぇ〜!」

枡田はそう言うと、腰を抜かして立ち上がれない翼の顔を覗き込んだ。

「廉太郎くんからお話伺うてますよ、ヨッシー?」

翼は、嫌な汗が自分の頬をつたって落ちていくのを感じた。


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