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ノヴァの箱舟―The Ark of Nova―
#1『メイ』
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 メイは人間が住んでいる中で最下級のランク、Fランクの《箱舟》に住む、何の変哲もない少女だった。窃盗の罪を犯したことの無い人間なんかいないあの街で、しかし《刻印》をもち、逆に焼印(マーカー)がない、と言うのは奇妙なことだったのかもしれないが。

 そんな最弱クラスの《刻印》使いでしかなかったメイの運命は、リビーラと言う金髪の《毒殺神父》が現れたことで一転した。彼はメイを『姫』と呼び、彼の仲間たちと共に半ば無理やりこの廃棄された資源用コロニーに連れてきたのだ。

 そこでメイを待っていたのは、今まで一度も見たことがないほど清潔で、先鋭的な地下基地と、巨大な扉。

 そしてその向こうにいた、メイの名を知る少年、《魔王(キング)》であった。彼は初対面の筈のメイに「久しぶり」と言い、そして「何も覚えていないんだったね」と言った。

 まるで、自分とメイが、どこかで出会っているかのように。


「私の名前……どうして知ってるのよ」

 メイは、《魔王(キング)》と名乗った、初対面なのにも懐かしい、すこし子供っぽい雰囲気の少年に問うた。少年は涼やかな、ちょっと困ったような微笑を浮かべる。その笑みを見た瞬間、メイの心の何処かが強く反応した。

 ――――私は、この笑顔を知っている。

「決まってるさ。君のことを知ってるから」
「……」

 少年の答えは、やはり今までの彼の会話と、概ね同じものだった。恐らく、どんな形で同じ質問をしても、ほとんど同じ意味の回答が返ってくるだろう。この、やけに胸を締め付ける涼しい笑顔と共に。

 はぁー、とメイは盛大にため息をつき、言い返す。
 
「それ……答えになってないわよ……」
「あ、そう?」
 
 とぼけた表情で、気の抜けた回答。肩をすくめたりしている。こんな気の抜けた会話では、余計こちら側の力もぬけてしまう。

 いや――――もしかすると、それが狙いだったのだろうか?こちらの緊張を取るために、わざとこんな気の抜けた会話をしているのだろうか?

 とりあえず、それは後で考えることにして、メイは《魔王(キング)》と名乗った少年に言う。

「あ、そう?じゃなくて……私はあなたの事何にも知らないのに、急に『君のことを知ってるから』とか言われても『何この厨二病』としか思わないわよ……」
「そうかい?まぁ、常識的に見ればそうだろうねぇ……」

 クスクスクス、と、小さく笑う少年の姿は、やはり初見のはずなのに、どこかで見た様な、奇妙な既知間と、哀しさと、愛おしさをもってメイの目に映った。

 《魔王(キング)》は笑うのをやめて、メイのことを見つめなおす。そして、愛しい者を見るような目つきで、メイのことを見た。

「だけどね、僕は君のことをよーく覚えてるよ?……
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