モノローグ - monologue -
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れる。
「徒花は、咲いてしまった」
―――静かに、ただ、冷たく、密やかに。されど小さな水音は、これより大海抜けんとする小舟の、はじまりの澪標。
引き戸を閉め、鏡台の横の蝋燭を灯す。安物の鏡に映ったのは、温かい火に照らされた褐色の肌。
無表情に自分の顔を見つめる女の身は肌に映える金の飾りに縁どられ、その云うべからざる美は、王国一の絵師の絵具すらもはるかに及ばぬものであった。
「そのまま凋落して、憂き世のあわいに銷されるか―――」
艶然な微笑み。
灯を映した眸は暗赤色にきらめく。
「それとも……墨守され続けてきた、終わること無き永久の螺旋を断ち切る楔と成るか―――」
蝋燭の火が握りつぶされた。
眉ひとつ動かさず微笑を浮かべたまま、火を呑みこんだ繊手を緩やかに開く。
「<頂>の到達、」
傷一つないやわらな玉の肌は、数分前と同様、美しいままであった。
「<鋼>の誕生、そして……」
ふわりと立ち上がる。
「……<真実>の開眼。……ふふ」
喧騒に続く扉を開ける直前。女は、この大陸、否、今はもう世界のどこに行ったとしても使われることはない言葉をつぶやいた。
「―――The die is cast.」
それは、嘗て世界中で使われていた言葉。 今はもう使われなくなった、いにしえの言葉。
太古の生き残りたちが伝えた、未来へ託したロスト・ランゲージ。
現代において、“古代言語”と称される―――。
「Hey... You ought, Blame, you know you ought. The ‘children’ are finally awake...」
――― 一滴の朝露が起こした波紋は拡がり、やがて荒れ狂う海原の大波へと姿を変える。
【子供たち】が、目醒めた―――…
…
――…
――――…
――――――…
―――悲しきかな、悲しきかな。
主を愛し、主と共に世界を愛した我が愛しき兄よ。
悲しきかな、我が心。
悲しきかな、主が想い。
【子供たち】よ、原始なる魂持ちし仔らよ。
怒り、悲しみ、それでも仔らを愛した「父」が子を、
どうか、どうか、
救っておくれ―――
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