モノローグ - monologue -
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ゅっと息を吸い込んだ呼吸音も、暗澹の沈黙に呑みこまれる。
震える瞳が、開いた。
覗く紅は索漠に彩られ、しばらくのあいだ、虚空を見つめる。
むくりと起き上った人影は、肩からすり落ちた白いブランケットを意味もなく視界に映して、ぽつりと、言の葉を落とした。
―――それはまるで、早朝の湖面に落ちた、一滴の朝露のように。
「……目醒めた」
自答か、否か。
眠りから覚めたばかりであるのか、少し掠れた声は、影にまとわりつく重い大気を振動させた。
しゅる......
ブランケットが襞を形作って地に落ちる。音もなく立ち上がった影は、狭い室内を数歩も歩くことなく突き当たった壁に手を当てた。わずかな凹凸があるこの壁は、戸だ。
ぴたりと絞められた木製の引き戸に、こぶし1つ分の隙間を開ける。
冷たい風と夕暮れの光が、闇に沈んだ部屋を浚った。
群雲の透ける空を見上げた。世界が夕闇に沈んでいく、黄昏時。
「―――……『それは、無限に小さく、無限に大きいもの…』」
ひっそりと、秘め事を話すように小さな声。
枕元に置いてあった象嵌細工の箱の蓋を開ける。溢れた金色は、全て豪奢な装飾品だった。
首飾りを何重にも巻いて、渦を描いたような環状のピアスは慣れたように穴に通す。
赤い石の嵌ったイヤリング、翠の石の重い指輪、青い石の鈴生りに音を立てるブレスレット。
宝石のように美しい金色の飾りたち。
それがすべて、鍍金と硝子で作られた、贋物だとしても。
一夜の夢を見るには、十分事足りる。仮初めの宝玉たち。
「……儚いものは…嫌い、では、無いの」
あと数分の後に消え入るであろう、紗がかかったようなやわらかい西日に透かした玩具の指輪は、光を通してきらりと瞬いた。
「『…巨大な可能性をはらみ、まったく無力なるもの』……―――」
真紅の口紅を塗った唇は妖艶な弧を描く。
「だから、この世の塵芥のひとつとなってみるのも、悪くない……なんて」
急速に藍に支配されていく空を見つめながら、女は独白する。その手に握られた小さいながらもきらびやかな指輪すら、黒に沈んだ。
夜より更に昏い闇色の、あでやかに波打つウェーヴの豊かな髪は慣れた手つきでまとめられ、金の花の咲く簪で縫い留められる。
形の良い爪は赤く塗りつぶされて、銀色の月光に妖しくかがやいた。
「倨傲だって、云うのかな。でも……」
部屋の揺れが止まっていた。いつの間にか、沈黙の部屋の中にまで浸透するざわめきが、女の飾りたてた耳にも届いていた。
白いアイラインを引かれた目は物憂げに伏せら
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