第百五十七話 延暦寺その十三
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織田家の軍勢は戦い続ける、やがて寺の意向に従わぬ者達は殆どが死に闇の法衣の僧兵達もだった。
殆どいなくなり戦になった場所は紅蓮の炎に包まれた、延暦寺の座主はその有様を寺の本堂から見つつこう周りに言った。
「無念じゃな」
「はい、例え仕方ないとはいえ」
「山に侍が入り戦をすることは」
「やはり無念です」
「嘆かわしいことです」
周りの者達も苦々しい顔で座主に答える。
「この有様はどうにも」
「嫌なものです」
「仕方ないと言えばそれまでなのですが」
「どうしても」
「うむ、しかもこれで延暦寺は長い間持ってきた力を失うことになった」
荘園に僧兵、この二つをだ。
「これまでの様にはいかぬ」
「かつて法皇様さえどうにもならなかったですが」
「それが、ですな」
「最早どうにもなりませぬな」
「織田家の軍門に降りました」
「そしてそのことをどうにも出来ぬでしょう、これからも」
それが延暦寺のこれからだというのだ。
「ただ教えを学び伝えるだけです」
「そして都を鬼門から守ることが」
「それが務めになり」
「武や富はなくなりますな」
「しかしそれでよいのであろう」
ここで座主は達観した様に述べた。
「これもな」
「最澄上人の御教えに戻りますか」
「そうしますか」
「うむ」
高位の僧達にこうも言うのだった。
「思えばそれが僧侶に相応しいのじゃからな」
「確かに。僧とは何か」
この考えに戻るとだ、まさにだった。
「人を教え導くもの」
「そして自らも学ぶもの」
「そういうものですから」
「そうじゃ、思えば武も富もいらぬものじゃった」
寺、そして僧にはだ。
「その考えに戻ろう」
「では、ですな」
「これからの我等は」
「教に戻りましょう」
「それのみに生きることに」
延暦寺の僧侶達は燃え盛る山の一部を見つつ言うのだった、そこに彼等が長きに渡って持っていたものが消え去ることも見ながら。
信長は遂に延暦寺の一部の者達が篭っていたそこを全て焼いた、その場にいた者達もあらかた死んでいた。
その屍を検分する中でだ、信長は周りに問うた。
「あの二人はおるか」
「杉谷善住坊、そして無明ですな」
「あの二人ですな」
「そうじゃ、あの二人はおるか」
こう周り、特に浅井の者達に問うたのだ。
「どうじゃ」
「それがどうも」
「焦げた屍も多く」
「顔すらもわかりませぬ」
「どうにも」
これが彼等の返事だった。
「それが、です」
「申し訳ありませぬが」
「左様か」
信長は彼等の申し訳なさそうな言葉を聞いて確かな声でこう言った。
「それならじゃ」
「それならとは」
「うむ、あの二人が生きておってもな」
それでもだというのだ。
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