第三部龍州戦役
第四十二話 戦争の夏の始まり、或いは愚者達の宴の始まり
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実上、ほぼ新編大隊となっている第十一大隊と、既存の部隊から集成した急拵えの第十四聯隊は、前線に投入する事もなく砲兵隊や司令部の護衛と言った、重要度は高いが、危険性の低い任務を割り当てられる事になっている。
少なくとも当面は気楽な気分で居られる事に豊久は胸を撫で下ろした。
――だが攻勢にでるとなると幾らでも兵力が必要になるし、近衛総軍がどこまで当てになるか、怪しいものではある。もっとも、攻勢に出る以上は確実に前線投入させられるのは当然だろうな。
しかしながら、この攻勢もどこまで上手く行くのか、豊久は疑問を抱いてもいた。予備隊の揚陸までに粘られたら再び膠着状態に陥る――或いは此方が先に消耗に耐えられなくなるのではないかと懸念していた。
――まぁいいさ。駒城の構想に従って長期消耗戦に引きずり込む為に段階的に撤退するにしてもどこかで戦果を挙げなければ国内に厭戦感情が高まり、長期消耗戦に付き物の懐柔工作の餌食になりかねない。 あの姫様の考えは分からんが、〈帝国〉中央政府は財政の逼迫している状況でだらだら戦争を続けている東方辺境領を許す事はないだろう。本国も経済が伸び悩んでいるのは事実だ。いつまでも東方辺境領の維持を支援する事を厭うに違いない。
豊久はなおも思考を紡ぐ。
――楽観的に考えるのならば、その論理は此方がここで内地侵攻を防げば<帝国>本領が出張って来る前に、すべての失点を東方辺境領に押し付ける事が出来るのならば、<帝国>本領政府の仲介でこちらの領土割譲と通商に関する譲歩でこの戦争を手打ちにできる可能性は低くはない。
――悲観的に見るのならば敗北とみなすことを嫌い、こちらに殴りかかってくる可能性はある。それに<帝国>相手に今以上に近い国境を持つ事がどれほど危険な事かは考えるまでもない。
さて、戦後に相対する事になるだろう相手は誰だろう、と豊久はかつて対面した美姫の顔を思い浮かべた。
――若いがゆえに、あの姫様は威信が揺らぐことをひどく嫌う筈だ。政治を抜きしてもあの高い矜持が必ず再戦前提であの人を動かすはずだ。少なくとも生きているのならば。死んだらどうなるのだろう――あぁ少なくとも帝族の死による講和などという敗北を認めるわけにはいかなくなるな。
皮肉な笑みが浮かんだ口元を扇子で覆う。
――何とも素晴らしい!!どの道、我々には泥沼の戦争か戦争に怯え続ける仮初の平和と再度の戦争しか道がないのだ!!であるからには我々軍隊はどうあがくにせよ、英雄的な戦果が必要となる、勝てるかもと自らを、政治屋を、民草を、そして陛下を騙し通すが為に。
僅かな勝利にすがるプロパガンダ、長期消耗戦、総動員――嗚呼、なんともはや、古びた俺の記憶の底で憧憬混じりに謳われていた古き良き時代の終焉そのものじゃないか。
錆びついた記憶、ある意味では両親以上に自分
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