5 「血華葬」
[10/12]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
病は菖蒲さんと私の2人でやりました。右腕が使えないものですから、スプーンを持つのも危なげで、恥ずかしそうに私からあーんしてもらっていたんです。ふふ、恥ずかしがるお兄様なんて、たぶんあの時以来私見たことないです。……幸せでした」
村を襲った脅威ももう無く、村人は最低限の誠意として薬草や傷の治りに良い雪山草を多少分けてくれましたが、でも、お兄様が受けた傷の対価としては決して見合うものでは当然なくて……!
でも、そんな安寧も長続きしませんでした。
雪山に立ち込めた血の匂いをかぎ取って、ドスギアノスの群れが―――今度は1つなんですが―――襲ってきたんです。雪山草を摘みに行っていた村民の1人のお爺さんが亡くなりました。帰ってこないのを不審に思ったご家族が、その、見つけて……。肉が散乱して、顔だけ確認してなんとかそれがおじいさんなのだと分かりました。
村はまた恐怖に慄きました。頼りのお父様が帰るのは予定ではまだあと2週間はありましたし、凪お兄様も今は利き腕を負傷していて、戦えませんでしたから。
ギアノスたちも殺気立っていて、とてもじゃありませんがクエストを依頼してから僻地にあるポッケ村へハンターが来るまで待っていられるような状況じゃありませんでした。何せ、人里へはふつう降りてこないギアノスが、村の門の100メートル向うに姿を現すほどだったんです。
依頼を出して、最速でも1週間弱はかかるといった連絡の入った後に、村の男衆は夜通し火を絶やさないよう見張りにつき続けました。一部の竜を除いた大抵のモンスターたちは火を本能的に恐れるものですからね。
しかし、賢いギアノスたちには分かってしまったのでしょうか。そのとき、ポッケ村は針の抜け落ちたハリネズミも同然だったということ。
月が雲に翳って、また顔を出したそのわずかの間に。20頭はいるだろうかというギアノスたちが、ポッケ村を取り囲んでいたんです。
村人が最後に泣きついたのは、凪お兄様でした。
『どうにかしてくれ』
『あんた、港さんの息子だろ』
『腕だってもう動いてるじゃないか』
そうです。そのころもうお兄様は、日常生活に支障はない程度には腕は回復していました。
凪お兄様はもとから体がとても丈夫で、怪我をしても普通より治るのが早かったんです。でも、だからといって、砕けた骨が完全に元通りになるのはいくらなんでも1週間じゃ無理というものです。その時だって、菖蒲さんにスプーンより重いものはできるだけ持つなと言われていたんですから。厚い本だって、もっちゃいけなかったくらいなんです。
「それを、知りもしないで…あんなに重い太刀を使えだなんて……!」
ただ、切羽詰っていたのも確かでした。あのままではどちらにしろ、ギアノスたちが踏み込んでくるのも時間の問題だったでしょう。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ