5 「血華葬」
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―――汀たちは無事にベースキャンプへとたどり着いただろうか。
走りながらふと、視界に映った小さなものに焦点を合わせる。
内蔵する煙をすべて出し切り、ただの黒い穴の開いたボールと化したけむり玉。降り積もる雪に埋まったそれは、すでに半分隠れてしまっている。いずれ雪ではなく氷に覆われる玉は、化石となることもなく永遠の時をこの凍土で超えるのだろう。
あれから何時間が経ったのか。それともまだ1時間も経っていないのか。
考えるのも億劫になってきていた。
うなじにぴりりと鋭い何かを察し、咄嗟に前かがみになりながら横に飛び退く。ひと蹴りで数メートルも垂直に方向転換した凪が目線をやった先には、見える範囲で3頭のギギネブラ。
(もう1頭……)
逃がさない。お前らが求めているのは俺だろう? さあ、早く。
背後から音もなく襲い掛かった4頭目の攻撃が当たる寸前、嘲笑うように躱して、回転しながら抜き放った太刀を勢いのまま振りぬく。体表を覆うぬめった体液とともに、鮮血が白い凍土に色を添えた。
そうだ、早く。早く、俺に。俺を
―――俺を?
まばたきするほどの一瞬、視界がモノクロに変化した。それから……
それから?
(……今、俺は何を考えてた? 何を……)
視た?
―――それは、鮮やかな赤と、それに浮かぶ白い……
無意識に頭を押さえる、が、そんなことを考えている余裕は残念ながら今はない。大型飛竜4頭に狙われるというのは、想像していたよりもずっと過酷だった。
ほんの一時でも油断すれば、毒にまみれる。
かといって、四方から飛んでくる毒弾にだけ注意していれば、気づいたときには壁際に追い詰められてしまう。“洞窟の天井も使った三次元の攻撃”。岬の言っていたことが、ここにきて本当に理解できた。これは相当な脅威だった。
息も凍るような寒さの中動き回りつづけた身体からはそれでも汗が吹き出し、そして外気に触れるとともにすぐに氷結する。体の内は熱いのに、手先はだんだんかじかんできていた。慣れない気候状態に、疲労がいつもよりも早くこたえてきているのだ。足が重い。
傍目にもわかるほどに疲労してきた体を鑑みて考える。
(まずは一旦、避難してから出直すか。いや……)
汀・岬・菖蒲の3人を無事にベースキャンプへと送り届けるためのこの作戦の立役者は、言うまでもない、凪だ。ここで休んでいる間に奴らが彼を追うことをあきらめてベースキャンプの方へ向かうとしたら、それは一番まずいケースだった。こやし玉の臭いも個数も有限のものだし、今の汀と岬がこの4頭を相手にするのは疲労した凪が4頭に向かうよりもさらに生存が絶望的であるということは、火を見るより明らかである。
(こいつらの体力もずいぶん落
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