第七章
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第七章
若し自分の顔を見て怯えたならばどうしよう、いやきっと怯える筈だ、この様な顔は。そんなことを考えながら今美香子と会うのであった。
美香子の前にやって来た。彼女は自分に顔を向けていた。そして今にこりと笑ってきた。
「横綱ですよね」
「そうだよ」
赤龍は無理をして笑顔を作ってそれに答えた。
「赤龍だよ」
「そうなんですか」
「うん。目、見えるようになったんだね」
「はい」
美香子はそのにこやかな笑顔で頷いてきた。
「見えます。横綱のお顔も」
「そう」
その言葉を聞いて寂しく、そして悲しい顔になった。それは美香子にも見えた。
「どうしたんですか?」
「いや、何でもないよ」
そう言って誤魔化すがそれでも心の中は違っていた。
「気にしないで」
「そうですか。それにしても」
「どうしたんだい?」
「横綱の目って凄く綺麗ですね」
「えっ」
美香子にそう言われて戸惑いを覚えた。はじめて言われた言葉であったからだ。
「今何て」
「目が綺麗だなって」
彼女はまた言う。
「綺麗かな、この目が」
「ええ、とても」
「そうなんだ」
彼の目も怖いと言われていた。眼光鋭く威圧的だと。だが美香子は彼の目を見てこう言ったのである。
「怖くないのかい?」
あらためて彼女に尋ねた。
「この顔と目が」
「いいえ」
しかし美香子はその言葉に首を横に振る。静かだが確実に。
「そんなことはないです」
「そうなんだ」
「だって横綱の顔は」
彼女はそのうえで彼に言う。静かな、澄んだ声で。
「とても優しく笑っているから」
「笑ってる?」
「そうです、私に」
にこりと笑ってきた。その笑みが赤龍の目にも入る。するととても優しい気持ちになるのを彼も感じたのであった。
「それでそんなことは」
「有り難う」
赤龍はその言葉を受けてそう言葉を送った。
「そう言って貰えたのははじめてだよ」
「そうなんですか」
「うん、実はね。ずっとこの顔が怖いって言われてきたから」
それが今変わろうとしていた。彼もそのことを実感していたのであった。自分で。
「だから。凄く嬉しいよ」
「そうだったんですか」
「本当に怖くないんだね」
もう一度それを問う。
「おじさんの顔が」
「はい。心が見えますから」
「そうか」
「よかったな、赤龍」
後ろから親方が声をかけてきた。優しい笑みを浮かべてじっと彼を見ていた。
「彼女が見ているのはな、御前の顔だけじゃないんだ」
「はい」
「御前の心も見ているんだ。だから微笑むことができるんだ」
「そうですよね。俺の心も」
「だって横綱私の為に勝ってくれたんでしょう?」
美香子は赤龍に対してまた言ってきた。
「そして今だって私に会いに来て
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