第六章
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第六章
何も言わず俯き腕を組んで座っている。そのままで何もせずただそこにいるだけであった。
「おい」
そんな彼に親方が声をかける。見るに見かねたのである。
「そんなに気にすることはないぞ」
「そうですかね」
彼はその言葉にすぐに応えることはできなかった。どうにも困った顔をし続けていた。
「だったらいいんですが」
「顔のことだろ」
親方は彼に問う。
「それしかないな」
「わかりますか」
「わからない筈がないだろう」
そう言葉をかける。
「それ以外ないんだから」
「はあ」
珍しく覇気のない気弱な返事をしてきた。それだけで今彼がどんな精神状況なのかがわかる。
「まあ考えてもあれこれ言っても仕方ない」
「それはわかってますけれど」
「わかっていたらもうくよくよするな」
親方はまた言った。
「どっしり構えるしかないだろうが」
「そうでしょうか」
「気持ちはわかる」
親方は彼のことはわかっていた。だからこそ声をかけているのである。
「だがな。それでもだ。会うしかないだろうが」
「ですよね」
赤龍はその言葉にも応える。それでも浮かない声であった。
「やっぱり」
「ここまで来たんだ。堂々といけ」
親方は発破をかけた。
「わかったな」
「ええ、じゃあ」
応えるしかなかった。親方もそうさせたのである。
「胸張っていきます」
「ああ、俺も一緒に行ってやる」
親方は彼の背中を守るつもりであった。彼が辛い時や壁に当たっている時はそうやっていつも見守ってきているのである。そうした意味で彼は赤龍にとっては親も同然の存在であったのだ。
赤龍は遂に美香子と会うことになった。その日が来て彼は袴を履いて彼女がいる病院に向かった。やはりそこには親方も一緒であった。
「部屋は知ってるな」
「はい」
赤龍は親方の言葉に応える。応えながら先へ二人で進み白い病院の中へ入った。
「お母さんに教えてもらいました」
「そうか。じゃあすぐに行っていいな」
「そうですね。面会の連絡の確認を取ってから」
「ああ。そうしよう」
事務室に話して確認と連絡を取ってもらった。そうした事前の用意も済ませてから美香子の側にと向かうのであった。
病室に二人で入る。そこは個室であり富子が立っているのがまず目に入った。そして背広の中年の男の人もいた。どうやら美香子の父であるようだ。
「はじめまして」
「お久し振りです」
二人はそれぞれ赤龍と親方に挨拶をしてきた。男の人はこう名乗ってきた。
「美香子の父の智也です」
「お父さんですか」
「ええ。話は聞いています」
彼はこう述べてきた。
「娘の為に。有り難うございます」
「いえ」
赤龍は彼に対して言葉を返す。謙虚な声であった。
「そん
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