第六章
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なことはないです」
「それで娘に会いに来て頂いたんですよね」
「ええ」
答える声が小さくなった。それを見た親方はそっと囁いてきた。
「気にするな」
美香子の両親に聞こえないようにそっと。ここでも彼を気遣っていた。
「いいな」
「わかってますけれど」
「わかっていたらだ」
彼は言う。
「度胸を据えろ。いいな」
「わかりました」
その言葉に頷いた。そして美香子の両親に対して言う。
「では娘さんに御会いして宜しいですか?」
「ええ、勿論です」
富子が応えてきた。
「どうか宜しくお願いします」
「はい。それでは」
「美香子」
智也がベッドにいる少女に声をかけてきた。見れば何か寝ているようであった。
「横綱が来てくれたよ」
「横綱が?」
「うん、御前に会いに来てくれたんだよ」
彼は娘に対して優しい声で語り掛ける。その横で富子が赤龍に対して説明するかのように述べてきた。
「すいません、手術が終わったばかりで」
「はあ」
「あまり長い時間目を開けることはないんです。まだ慣れていませんから」
「そうなのですか」
「そうなのです。今起きますので」
「わかりました」
赤龍はその言葉を受けて頷いて応えた。
「それでは今から」
「はい。お願いします」
運命の時であった。はじめて土俵にあがった時よりも横綱の襲名式の時よりも緊張していた。今まで生きてきた中で最も緊張してきた。高校の相撲大会で優勝し鳴り物入りで角界入りした彼が。鬼も怖れぬとまで言われた彼が。今極端にまで緊張していた。
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