第四章
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穏やかな声でそれに応える。その言葉にはあの無敵の横綱の姿はなかった。
「私、手術受けます。頑張ります」
「うん、頑張って」
そう彼女に言う。
「きっとだよ、いいね」
「はい。それでですね」
彼女はあることを提案してきた。
「二つお願いがあるんですけれど」
「お願い?」
「はい」
そう言ってからこくりと頷いてきた。
「二つあるんです」
「何だい、それは」
「聞いてもらえますか?」
「うん。よかったら言って」
言ってもいいと述べた。美香子はそれを聞いて述べてきた。
「わかりました。手術の日の勝負ですけれど」
「うん」
「勝って下さい」
彼女は言ってきた。
「私も頑張りますから横綱も頑張って下さい」
「わかったよ」
赤龍は笑顔でその言葉に応えた。鬼の様な顔が優しく綻んでいた。
「絶対勝つから。それは任せて」
「お願いします」
まずはそれは受けることができた。彼としても敗れるつもりはない。何があっても勝つつもりになった。
しかし願いはそれだけではない。もう一つあるのだ。それは何だろうか。赤龍はそれを考えながら美香子の話を聞き続けたのであった。
「それで二つ目ですけれど」
「今度は何かな」
やはり穏やかな声で応える。
「はい。目が見えるようになったら」
「目が見えるようになったら?」
「私、横綱の顔を見ていいですか?」
「えっ」
その言葉を聞いた時赤龍の表情が一変した。
「今何て」
「ですから」
美香子はまた言ってきた。
「横綱のお顔、見ていいですよね。目が見えるようになったら」
「う、うん」
赤龍はそれを言われて急に態度がよそよそしくなった。何か不都合があるようにさえ見える。
「いいよ」
「そうですか。じゃあ」
「有り難うございます、横綱」
美香子は笑顔になる。富子も同じだ。赤龍はそんな二人の顔を見てもう何も言うことができなくなってしまった。
「それでは私共はこれで」
「横綱、きっと目が見えるようになりますから」
美香子は笑顔のまままた赤龍に言ってくる。
「その時にまた」
「会おうね」
「はい」
こうして二つの約束が為された。赤龍は勝負に勝つことと会うことが決まった。だが彼はこのことに対してどうしても困ったことがあった。
「親方」
彼は親子が帰った後で親方に声をかけてきた。
「どうしましょう」
「どうしましょうっておい」
親方は赤龍が珍しく弱気な顔を見せてきたので驚かずにはいられなかった。それで彼に問うた。
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