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万華鏡
第六十話 ハロウィンの前にその七
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「そうらしいのよ」
「ううん、昭和二十五年ですか」
「丁度二リーグになった頃ね」
 今では遥かな昔のことである。
「その頃に言っておられたけれど」
「そのままだったんですね」
「手塚野球漫画は描かれなかったのよ」
「物凄く残念ですね」
「そうよね、阪神を主人公にした漫画だったら」
 それこそだというのだ、部長も。
「最高だったわよね」
「結構阪神を主人公にした野球漫画って少ないですからね」
「巨人は多いけれどね」
 部長はこのことを忌々しげに述べた。
「敵役じゃなくて主人公にね」
「そうですよね」
「男ドアホウ甲子園とかはあるけれど」
 ドカベンと並ぶ水島新司の出世作だ、主人公の名前は藤村甲子園という。その名前のまま主人公は甲子園球場を主に戦う。
「それでもね」
「どうしてもですね」
「そう、少ないのよ」
「残念ですよね」
「野球狂の詩は阪神に出ている水島先生のキャラも結構いてしかも阪神戦ばかりだけれどね」
 主人公の東京メッツの試合は半分位が阪神戦だったであろうか、特に水原勇気が出てからは阪神との試合ばかりだった。
「それでもね」
「阪神は少ないですよね」
「一番絵になるチームだけれどね」 
 巨人は無様に敗れる姿こそが似合い相応しい、しかし阪神はどういったことになろうとも絵になり美しいチームなのだ。
「けれどね」
「少なかったんですね」
「野球は巨人っていうのは嘘よ」
 部長はまたしても言い切った。
「野球は阪神よ」
「少なくとも一番絵になるチームですよね」
「そう、その阪神が連覇していくのなら」
「部長さんにしても」
「望ましいことよ。じゃあ今日は阪神の日本一を祈願して」
 そしてだと言うのだった。
「このジャージで部活よ」
「全く、阪神はいいわよ」
 宇野先輩は今は飲んでいない、だから標準語でこう呟いた。その顔は暗く沈み実に悲しそうなものである。
「カープなんて」
「って今シーズン二位でクライマックスで阪神と戦ったじゃない」
「最後に優勝したの何時よ」
 口を尖らせて部長に抗議する。
「一体」
「確か九十一年よね」
「全く、私が生まれるより前じゃない」
 つまりその目で広島の優勝は見ていないのだ、宇野先輩は。
「いい加減見たいわよ」
「まあそれはね」
 少しだ、部長は後ろめたそうに苦笑いを浮かべてこう言った。
「何ていうかね」
「兄貴と新井活躍したわね」
「有り難うね」
 部長は困った笑顔で宇野先輩に述べた。
「何ていうか」
「まあ巨人に取られるよりずっといいけれど」
「阪神ならまだいいの」
「許せるわ」
 相手が阪神ならというのだ。
「まだね」
「許せるのね、阪神は」
「巨人だと絶対に駄目よ」
 何があっても許せないという
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