第一章
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は万人に忌み嫌われている。彼がへこまされる話は誰もが望んでいるのである。だから面白そうに眺めているのだ。
「しかしだね相撲は我が国の」
「それでもです」
赤龍はまたしてもきっぱりと言い切った。
「私には相手が誰であれ構いません。強くて尊敬できる相手なら」
「ううむ」
「それだけです。外国人とかそういうのは何の問題もありません」
そう言って老人を黙らせてしまった。傍若無人で知られる老人ですら黙らせてしまったのであった。
「わかった」
老人は憮然として頷いてきた。というよりは頷くしかなかった。
「そういうことだな」
「そうです。では」
「待ちまたえ」
また老人は彼を引き止めてきた。
「まだ何かあるんでしょうか」
「これから付き合わんかね」
彼は料亭好きで知られている。そこでの密談を常にしているのだ。本来はそうした料亭での密談を批判するべき立場にいる筈なのに自分がそれをしている。何処までも陰険で腐り果てた人間なのである。
「美味いものでも食べながら」
「いえ」
赤龍はそれも断ってきた。やはり言葉は毅然としていた。
「もう約束がありますので」
「約束とな」
「はい、親方達と」
そう言って彼の話を受けようとしない。これは本当のことなので断るには充分であったのだ。
「そういうことですので。じゃあ」
「くっ」
老人は彼が去って行くのを忌々しげに見送るしかなかった。憂さ晴らしに葉巻を取り出す。なおここは禁煙であるがそれでも構うところはない。
「帰るぞ」
火を点けさせて周りの者に声をかけた。
「えっ」
「帰ると言ったんだ、馬鹿者が」
「は、はあ」
周りのマスコミ関係者の侮蔑しきった視線にはもう気付いていた。だから余計に忌々しかった。
腹立ちまぎれにその場を後にする。マスコミ関係者はその愚かで無様な姿を侮蔑した笑みで見送りながら話をしていた。
「いい記事になるな」
「全くだ」
彼等は口々にこう言い合った。
「あの爺さんの人種差別発言か」
「その後での密談への介入」
これだけで記事になる。叩かれるには充分であった。
「ちゃんと映像にも取ってるぜ」
テレビ局のスタッフが言ってきた。
「おお、そうか」
「ここ禁煙なのに葉巻吸うところもな」
「いいねえ」
「じゃあ放送だな」
「記事にも書いて」
あの老人に関することならそうして書かれていくのだ。元々人望も何もなく自身の社内でも北朝鮮の独裁者の様な有様であるので誰も何も言わない。愚劣で醜悪な裸の王様というわけである。
「こりゃ売れるな」
「全くだ。いい記事になるな」
こうして老人と赤龍に対する記事が出来上がった。老人は薄汚い人種差別主義者という烙印も押され赤龍はそれを否定し相手を尊敬する真の横綱となった。大々
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