来たる、カトレーンの女王様
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くティアを抱きしめていたらしく、ティアは苦しそうに呟いた。
一瞬ポカンとしたクロスだが、今更ながらに気づいたのだろう。
慌ててティアを解放し、その隣に腰掛けた。
「で・・・クロス、何だって?」
「だから、カトレーンの女王様さ」
聞き返したグレイに、クロスは表情を曇らせて答える。
その目に静かに怒りが浮かんでいる事には誰も気づかなかった。
「あの女は自分の思い通りにする為なら、家族にだって容赦しない。だから一族の裏じゃ、カトレーンの女王様って呼ばれてるのさ」
「なるほど」
先ほどの祖母の様子を思い浮かべ、その場にいた全員が納得する。
確かにアレは女王と呼ぶに相応しい女だった。
氷の女王と呼ばれるティア以上に女王らしさを感じさせる。
「・・・姉さん」
「何」
「帰るな」
珍しく命令口調で、クロスは言った。
一瞬驚いた様に瞬きしたティアは、無言で小首を傾げる。
「帰っちゃダメだ、あんな家に。あの家に帰ったら姉さんは姉さんじゃなくなる・・・姉さんがギルドにいる為なら、俺はどんな手でも尽くす。だから・・・帰らないでくれ」
その言葉は本気だった。
声に込められた純粋で狂った思いに、全員が気づく。
クロスはティアの為ならどんな手も尽くす。
家に帰らせない為なら・・・その剣を血で汚しても構わない。
そんな思いが、クロスの声には込められていた。
「・・・」
ティアは何も言わなかった。
ただ無言でショルダーバックを掴み、立ち上がる。
「姉さん?」
「・・・帰りたくないわ、私だって。あんな家にいたくもない。だけど・・・相手はあのお祖母様よ?」
「だから、姉さんの為なら俺がっ・・・!」
「ダメ!」
「!」
クロスがガタッと立ち上がる。
それをティアが声だけで制した。
その声にはただならぬ気迫があり、クロスは小さく体を震わせる。
「それじゃダメなの・・・アンタは唯一“カトレーンの人間”なんだから・・・出来損ないの私の為とか言って、血を流すのは私が許さない」
「姉さ・・・」
「私に左右されない人生を送りなさい、クロス」
そう言って、ティアは足を進めた。
「アンタなら大丈夫・・・だって、私の自慢の弟だから」
振り返る事もせず、そう言い残して。
次の日。
―――――――ティア=T=カトレーンは、マグノリアから姿を消した。
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