日没に絡むイト
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い、なんて気にさせてくれる。
しっかりと追撃まで固めたのは秋兄の率いる部隊が異常な事を見抜いて……か。
突然、小さく身体を震わせて、夕は楽しそうに笑った。
「ふふ、ふふふ、これで秋兄は私のモノ。諸葛亮……やはり無様」
突然の発言に疑問が起こった。何故、諸葛亮の名前が出てくるのだろうか。確かに夕の欺瞞分裂策を読めなかったのは軍師としての敗北を意味するだろうけど、それを意味しての発言ではないようだ。
「なんで諸葛亮?」
「洛陽で勧誘を掛ける為に秋兄を誘い出す時に、諸葛亮は私を遠くから睨んでいた。きっとあれも秋兄が欲しい部類。私の掌で踊って、慕う人を遠くから為す術も無く奪われて、本当に無様」
平坦に紡がれたその言に思わず吹き出す。詰まる所、夕はヤキモチを妬いていたんだ。でも――
「あは、調子出て来たね♪ やっぱり夕はそのくらい腹黒でなきゃ。だけどね夕、秋兄に惹かれてるのは鳳統も一緒みたいだよ? 連合の初めの頃からだから諸葛亮よりも強敵かもねー。多分今も一緒にいるだろうし――」
「問題ない。郭図はこれ以上優秀な軍師が増えるのは嫌だから絶対に殺しにかかる。優秀な軍師を失う事は劉備軍にとっても痛手だから秋兄は見捨てられないし一人では逃げられない。捕まえた後、郭図が殺すだろうから少しだけでも精神的な絶望を感じてしまった秋兄の心は揺さぶり易い。そこは明を信頼してる」
「あー……あたしに揺さぶれって? まあ、その時はとっておきの手札もあるから大丈夫かな」
首を回して、斜めにあたしを見上げた夕の瞳は真っ直ぐな信頼の色。それだけ期待を向けられたら、応えるのが親友というモノだ。
あたしには秋兄の心を揺さぶれる手札がある。関靖の死を看取ったあたしだけがそれを出来るだろう。
見つめる夕に微笑んで、頭をゆっくりと撫でつけた。気持ちよさそうに目を細める彼女はいつも通り。
――万が一、秋兄が復讐に走ったとしても対象が郭図になるだけ。それすらも見越して、か。ホントこの子は必要なモノ以外には容赦ないなぁ。鳳統も可哀そうに。
自身の大切なモノの才能に恐怖と敬愛が沸き立つ心を携えて、これから起こる状況に思考を向かわせながら、あたし達は部隊と共に行軍を続けて行った。
†
袁術軍への奇襲から撤退後、本隊からの伝令がやってきて三人の心は焦燥と怒りに支配されていた。
報告された内容は多く、どれもが最悪のモノ。袁紹軍の徐州侵攻、本城からの伝令遅延、孫策軍が行軍を開始、そして……次の行動に移る為に本陣へ撤退せよとの事。
拳を握りしめ、昏い瞳を北の空に向ける星。
彼女は知っているのだ。張コウという武将の即時対応がどれほど早いかを、袁紹軍による街道封鎖がどれほど的確にして迅速であるかを。
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