第三章 始祖の祈祷書
第六話 忍び寄る影
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は、ボーウッドに向き直ると、優雅に腰を曲げて頭を下げた。冷たい妙な雰囲気をする、二十代半ばの女性であった。見たことのない、奇妙な細い、ぴったりとした黒いコートを身に纏っており、マントはつけていなかった。
クロムウェルは、シェフィールドを観察するかのように見つめているボーウッドに近づくと、その肩を叩いた。
「彼女は、東方の“ロバ・アル・カリイエ”からやってきたのだ。エルフより学んだ技術で、この大砲を設計した才女だよ。彼女は、未知の技術を………、我々の魔法の体系に沿わない、新技術をたくさん知っておる。君も友達になるがいい、艤装主任」
ボーウッドはシェフィールドを睨みつけるようにしながら頷いた。革命軍の軍人であるボーウッドであったが、心情的には王党派であった。しかし、軍人は政治に関与するべきではないと意思を強く持っていたため、上官である艦隊司令が反乱軍側についたことから、レコン・キスタ側の艦長として革命戦争に参加したのであった。アルビオン伝統のノブレッス・オブリージュ、高貴なものの義務を体現するべく努力する彼にとっては、今だアルビオンは王国であるのだった。よって、彼にとっては、クロムウェルは忌むべき王権の簒奪者であった。
「これで“ロイヤル・ソヴリン”号にかなう艦は、ハルケギニアのどこを探しても存在しないでしょうな」
ボーウッドは、間違えた振りをしてこの艦の旧名を口にした。その皮肉に気が付いたクロムウェルはそれでもボーウッドに微笑みかけた。
「ふふ……ミスタ・ボーウッド。アルビオンにはもう“王権”は存在しないのだ」
「そうでしたな。しかしながら、たかが結婚式の出席に新型の大砲を積んでいくとは……下品な示威行為と取られますぞ」
トリステイン王女とゲルマニア皇帝の結婚式に、国賓として初代神聖皇帝兼貴族議会議長のクロムウェルや、神聖アルビオン共和国の閣僚は出席する。その際の御召艦が、この“レキシントン”号であった。
親善訪問に新型の武器を積んでいくなど、あまりにも失礼であった。
クロムウェルは苦笑すると、肩をすくめた。
「ああ、そう言えば君にはまだ、“親善訪問”の概要を説明していなかったな」
「概要……ですか」
また陰謀か、と苦々しく思ったボーウッドは、顔をしかめ、“レキシントン”号に積載されている大砲を睨みつけた。その様子を見たクロムウェルは、ボーウッドの耳に口を寄せると、二言三言囁いた。
すると、“レキシントン”号を睨みつけていたボーウッドの目が、驚きに見開かれた。そしてゆっくりとクロムウェルに視線を移動させると、怒りに震える口でクロムウェルを怒鳴りつけた。
「馬鹿なっ! 何を考えているんだっ!! そのような破廉恥な行為っ! 聞いたことも見たこともあり
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