第5章 契約
第86話 紅い月
[9/15]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
分はもしかすると、本来は存在して居なかったブリミルと言う民族的英雄伝説の主人公が本当に存在した、……と言うように考えた人々が新たに生み出した偶像、伝説の具現化の可能性もゼロでは有りませんが。
「戦乱、疫病、天変地異。其処に、オーロラや彗星の登場。どれも、世界に危機が訪れる際に起きると言われている出来事」
タバサの言葉を継いで、俺がそう言った。
かなり、自嘲の色を滲ませながら……。
そう、これは自嘲。
何故ならば、この危機的状況が訪れる可能性にもう少し早い段階で気付くべき情報が、俺の前には提示されていたのですから。
それも、非常に分かり易い形で。
紅い月。
毎晩のように現れる満ち欠けする地球の衛星。このハルケギニア世界に存在するふたつの月の内の片割れ。蒼い月は、おそらく位相の違う地球の姿が見えて居る状態なのでしょう。
しかし、紅い月の方は色が紅いと言うだけで、俺の知って居る地球世界の月と違いを感じなかったのですが……。
しかし、地球世界の伝承では紅い月は不吉の報せ。大きな戦乱や国が滅びる兆し、と言う伝承も存在して居ました。
要は、これは俺の思い込みが招いた失態ですから。
異世界なんだから、紅と蒼。ふたつの月が有っても何も不思議ではない。
そして、蒼の月が、おそらく異世界の地球の姿を映しているのだろう、と言う仮説を得てからは、蒼穹に存在するふたつの月に関しては、大して気にも留めずにここまで過ごして来て仕舞いましたから。
確かに一般的な自然現象として月が紅く見える事は、俺の暮らしていた地球世界でも有りました。しかし、常に紅い月が頭上に輝き続けて居る。
これを、何らかの異常現象の現れ、と考えたのなら、
「もう少し早い段階で……」
世界の危機を感じ取った可能性もゼロではない。そう続けようとして、其処で言葉を止める。
何故ならば、早く知ったトコロで、俺に対処する術がなかったのは事実ですから。
現状の俺はガリアの王太子の影武者で有り、イザベラと平気で話が出来る立場に有ります。が、しかし、一カ月前にはそんな立場には有りませんでした。
おそらく、俺に出来た対処方法で一番現実的なのは……。
真っ直ぐに俺の事を見つめる少女を見つめ返す俺。そう、俺に出来た対処法は、この少女に危険が及ぶ事を阻止する為に、彼女を何処か遠くに隠す事ぐらい。
但し、それは彼女に拒否されるでしょうし、仮に、タバサを安全な場所に隠す事が出来たとしても、残った俺が単独で出来る事は程度が知れていますから……。
其処まで考えた後に軽く頭を振り、袋小路に入り掛けた思考を振り払う。
同時に陽が落ちるに従って低下が進む気温に相応しい大気を吸い込み、新鮮な空気と、身体全体に気を循環させた。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ