第5章 契約
第86話 紅い月
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最初の興味が大きかっただけに、やや肩透かしを食わされたみたいな、少しがっかりとした気分でふたりのやり取りをぼんやりと見つめていた俺の耳に、聞き流す事の出来ない内容が飛び込んで来る。
この言葉が思い付き……。オスマン老の口から出まかせの与太話の類でなければ、すべての大地がアルビオンの如く浮き上がると言う呪いが未だ解除されていない、と言う事なのか。
それとも……。
「ふむふむ。フリッグに再び哀しみが訪れると言うのか」
そして続けられるオスマン老とモートソグニルの会話。その内容は、新たな危機の可能性を指し示す内容。
その瞬間、俺の右側の椅子に腰を下ろす少女がその身を僅かに硬くした。
いや、雰囲気は極力普段と違う雰囲気を発しないように、彼女自身が気を張っているのは判ります。しかし、それでも尚、彼女の手にするコーヒーの入った白いカップに僅かな波紋が描かれた、……と言う事。
フリッグ。北欧神話の主神オーディンの神妃とされる女神さま。ただ、この世界にはオーディンなどの北欧神話に繋がる神の伝承は残って居なかったはず。
但し、意味が不明な状態。例えばフリッグの舞踏会などと言う形では残って居ます。しかし、そのフリッグの、と言う部分に関する伝承は、俺の知って居る限り残っては居ませんでした。
これは、一神教のブリミル教が広がって行く過程で、多神教。特に精霊に対する信仰に繋がる伝承は破壊され、ブリミル教に都合の良い伝承に置き換えられて行ったと考えて居たのですが……。
ただ、もしかすると、何処かの田舎。例えば、ブリミル教の信仰……侵攻の及ばない地方になら、未だ古い。ブリミル教よりも古い伝承が残って居るのかも知れません。
そう。例えば、モートソグニルなどの名前や、
「巫女の予言ですか、オスマン老」
先ほどオスマン老が口にした内容などは……。
更に、この食わせ者の老人は、俺の右目の色が変わって仕舞った事情にも有る程度気付いて居ると言う事でも有りますか。
タバサと俺の関係をフリッグとオーディンの関係に擬えなければ、先ほどの台詞は出て来ませんから。
俺が問い掛けた瞬間、右手の上で会話を続けていたモートソグニルがオスマン老の腕を走り抜け、右肩の上にちょこんと座る。
しかし……。
「春まではガリアに厄介になろうかの」
俺の問いに答える事もなく、オスマン老はそう言ってから相好を崩した。
そう、その表情はまるで悟りを開いた尊者の如し。但し、これでは先ほどの言葉の意味を問うても、真面な答えは返してくれないでしょう。
おそらく、その程度の事は自分で判断しろ、と言う事なのでしょうが。
巫女の予言で語られるフリッグのひとつ目の哀しみとは、息子のバルドルの死。
そして、再びの哀し
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