第5章 契約
第86話 紅い月
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を口にする俺。平時の午後に相応しくない危険な響きを内包する言葉を。
もっとも、この程度の内容をこの人物が知らない……いや、気付いていないとは思い難いのですが。
ただ、あのガリアに伝わる伝承は問題が有りますから。
俺に取っては特に……。
「彗星とは古来より、王や高貴な者の死、戦乱、大災害の予兆として考えられて居ったの。
もっとも、その正体は宇宙を飛ぶ天体なのじゃがな」
少し恍けた雰囲気ながらも、流石は賢者と呼ばれるオスマン老。このハルケギニア世界は地球世界の時代区分で言うのなら清教徒革命の時代。おそらく今年は1649年。この時代の人間に彗星が宇宙を行く天体だと言う事を知って居る人間は多くないでしょう。
この時代は天文学に関しても黎明期。コペルニクスの地動説は十六世紀。ケブラーの法則も十七世紀初め。『それでも地球は動く』の言葉で有名なガリレオ・ガリレイが軟禁状態の内に死亡したのが、確か1642年の事ですから……。
この世界のブリミル教の教義如何に因っては、先ほどのオスマン老の台詞自体が非常に危険な発言と成る可能性も有りますか。
「それに、ジョゼフ陛下は未だお若い。まして、お主と言う世継ぎを既に指名して居るのじゃ。其処になんの問題もないと思うがの」
俺が地球世界の近世の天文学者たちの足跡に記憶を飛ばして居る間に、オスマン老が更に話を進める。
確かに、それは事実。まして、彼も、現在のジョゼフが普通の人間ではない事にも気付いて居るでしょう。
「先日、父は使い魔召喚の儀式を行い、使い魔として不死鳥を得る事に成功しました。生命力を司る霊鳥を召喚出来た事で、この彗星に因る迷信など、単なる迷信で有ったと笑い飛ばせる事となるでしょう」
内心を表に出す事もなく、そう答える俺。
しかし、この彗星が現われた事に因り、実は俺の生命と共に、ジョゼフにも生命の危険が迫っている可能性を考慮して居たのは事実です。
それは巷間で語られる際のジョゼフの二つ名聖賢王と、俺……ガリア王太子ルイを指し示す英雄王の関係。
聖賢王ジャムシードと英雄王フェリドゥーン。
蛇王ザッハーグに殺される聖賢王と、その蛇王を倒し、新たな王に即位する英雄の物語。
更に、ジョゼフの聖賢王、俺の英雄王共に、ガリアの諜報組織が民意を誘導する形で付けた二つ名などではなく、ましてや自称などでもなく、民の間から自然発生した物で有る事も確認済み。
そして何より、クトゥグアを召喚しようとした青年が最後に口にした言葉。俺に対して、未来の英雄王だと告げた内容。
ここまでの状況証拠が揃えば、一応、警戒ぐらいはして置いても損はないでしょう。
ウッカリだ、とか、抜かっていたわ、とか言う状況は許されない立場に居るのは確実ですからね
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