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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第86話 紅い月
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……。

 蒼穹に移していた視線を再び彼女。俺の相棒と成った少女に戻した瞬間。
 俺の頬に、彼女の少し冷たい手がそっと添えられていた。

 そう。さして広いとは言えない翼ある竜の背の上。それでも、少し……不自然に成らない程度の距離を置いて座って居たお互いの距離を詰め、右手を伸ばせば届く距離にまで近付いて居た彼女。
 横座りの形から身体を返して、両膝と左手を竜の背に着く姿勢。そこから顔をこちらに向け、やや上目使いに俺を見つめるその仕草。思わず、そのまま抱き寄せて仕舞いそうになるほど愛おしい。
 その、俺を見つめる彼女の表情自体は変わらず。人形のように精緻で、しかし、未だ少女特有の曖昧な部分。これから先に、もう少し大人の女性の顔へと変貌する余地を残した、整った容貌に張り付いているのは無。
 しかし、彼女の発する気は陰。これは……。

「ここから先に進まず、一度リュティスに帰る事を推奨する」

 普段よりもより強い語気でそう伝えて来るタバサ。
 自らに移譲された支配権を行使して、翼ある竜に一か所で旋回を繰り返させながら。

 意味不明。但し、彼女が真剣なのは理解出来る。
 蒼い光の元、彼女の真摯な瞳が、彼女が発して居る雰囲気が、それを強く伝えて来ていた。
 そして、瞳を一度静かに閉じ、呼吸を整えるかのようにひとつ小さく……まるでため息を吐くかのように息は吐き出した後、

「ガリアの古い伝承の中にこう言う物が有る。
 星が流れるのは、誰かの命が消えて行く事の象徴。
 まして、先ほどの流星は落ちて来るに従って幾つかの小さな破片へと別れて行った」

 これは、その中でも一番不吉だと言われる形。
 ゆっくりと、しかし、明らかに強い調子でそう伝えて来るタバサ。

 彼女の言葉を非科学的……と断じる事は容易い。
 しかし、それを言うのなら、俺や彼女と言う存在自体が科学を超越した向こう側の存在。
 ならば。

「ありがとう。俺の事を心配してくれたと言う事やな」

 先ずは、素直に礼を口にして置く俺。
 但し、俺の左の頬に当てられた彼女の小さな手をそっと……。本当に、壊れ物を扱うかのように優しく外しながら、

「せやけど、その程度の理由で帰る事は出来ないな」

 彼女の気持ちを……拒絶する言葉を伝えた。
 確かにもっと明確な理由。俺自身を指し示す星が彗星や火球に因って隠れたとか言う理由ならば、少しは凶事と考える事も可能かも知れません。
 しかし、先ほどの流星。いや、アステロイドベルト生まれで、先ほど感じたレベルの光を放つ流星ならば火球と呼ばれるクラスの流星も、実はそう珍しい物でも有りません。
 単なる流れ星クラスの物なら、一日に二兆個。重さにして約百トンもの大量の流星が地球には降りそそいでいる、と言う
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