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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第86話 紅い月
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、左右に二度、その首を振った。
 そして、

「問題ない」

 無味乾燥。実用本位の答えを返して来るタバサ。公式の行事の時とは違い、こう言う時は出会った時のままの彼女の対応。
 但し、本来ならば、口を開けた瞬間に白く凍った吐息が漏れ出るはずの外気温で有るにも関わらず、彼女の口元は一切、変わる事はない。

 そう。この翼ある竜は風の精霊を支配する竜。このような高度を飛行する場合は当然、風の精霊を支配し、自らの周りに温かい空気の層を作り出して飛行して居る。
 故に、生命の危険さえ伴う高度四千メートル地点を飛行中で有ったとしても、快適に過ごせるのです。

 尚、こんな暗がりで彼女が本を読めるのも暗視の仙術を行使しているから。

「それで、今、向かっているルルドの村に付いての予備知識で必要な事は有るかな」

 再び視線を手元に戻し、読書の体勢に戻る彼女に、再度言葉を掛ける俺。
 手持ち無沙汰。……と言う訳ではないし、彼女や湖の乙女と行動して居ると、自然と静寂の中に身を置く事に対する不安と言う物も感じなくなって来るのです。が、しかし、流石に、まったくの予備知識ゼロで北花壇騎士としての御仕事を熟す訳にも行きませんから。
 まして、今度の仕事もまた前任者たちが死亡した為に俺とタバサのトコロに回って来た御仕事。どう考えても、一筋縄で行くとは思えませんから……。

「火竜山脈の麓。ガスコーニュ地方に存在する寒村。ブランデーやワインで有名」

 しかし、読書を中断させられても、不機嫌な雰囲気を発する事もなく、普段通りの淡々とした様子で答えを返して来るタバサ。
 その瞳は、彼女の年齢からは考えられない程の怜悧な色を浮かべ、俺を真っ直ぐに射抜いた。

 成るほど。ガスコーニュ地方。確か、クーデターを起こそうとして、逆にカウンター・クーデターですべてを失った元東薔薇騎士団所属の主な騎士たちの出身地がこの辺りでしたか。もっとも、このハルケギニア世界のガスコーニュは、地球世界のバスク地方も含むような感じなのですが。
 元々、独立国だった地域をガリアが併呑したらしい地域ですから、もしかすると、地球世界の歴史上に存在するガスコーニュ公国やナバラ王国のような国が過去に存在していたのかも知れません。
 それに、ワイン。いや、この地方なら地球世界でもブランデーは世界的にも有名な物が有りましたか。確か、アルマニャックはこの地方で造られるブランデーの事だったはずです。

 更に、タバサの母親の実家は、このガスコーニュ地方を領有していた侯爵家だったはずですね。

 そんな地方にタバサを向かわせなければならない事件。確かに、急に動かせる戦力で、一番能力が高いのは俺とタバサでしょうが……。
 本来ならば、今回の任務はタバサを置いて、俺と湖の乙女を
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