第5章 契約
第86話 紅い月
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贅を尽くした宮殿。おそらく、このハルケギニア世界でも最大の富を誇る国の王が住まうに相応しい宮殿、それがこのヴェルサルティル宮殿。
その規模は地球世界のヴェルサイユ宮殿に匹敵し、聖賢王と称されるジョゼフの御代に成っても、未だ建設中の箇所も多い。
その宮殿の離宮。現在は王太子宮として機能しているグラン・トリアノン宮殿の一室。
十二月、第四週、イングの曜日。
「これは王太子殿下。このような老人に何の用ですかな」
流石にこの広いヴェルサルティル宮殿内をすべて冷暖房完備の宮殿にする事は未だ無理。故に、今のトコロは主要な部屋にのみに地球世界のエアコンを装備するに留めている状況。
その少ない冷暖房完備の部屋の内のひとつ。その部屋の現在の主の白髪白い髭の老人が、入室した途端にそう問い掛けて来た。
しかし、
「午後のお茶の誘いはして有ったはずなのですが、聞いて居ませんでしたか?」
トリステイン魔法学院の元学院長で、現在は無職。ガリア王国の食客と言うべき立場のオスマン老に対して、そう問い掛ける俺。
当然、現在、俺が押しているのはお茶の準備をしたカート。俺の右隣には普段通りタバサが静かに立つ。
普段通りの日常の一場面。あのゴアルスハウゼン村での事件以来、切った張ったの生活からは遠ざかって居ますが、それ以外の仕事が妙に忙しいので、本来こう言う時間は貴重なのですが……。
「おぉ、そうじゃったな。そう言えば、そんな話も聞いて居ったよ」
相変わらずのオスマン老の対応。ただ、俺はコルベール先生ではないのと、余りにも年齢が離れすぎている相手。更に、付き合いが短いので、そんな少し人を喰ったオスマン老の態度にも大して気にする事もなく、
「それでは、オスマン老は何を飲みますか」
お茶。それとも、コーヒー?
そう問い掛けながら、それぞれのポットを指し示す俺。
時刻は午後の三時過ぎ。窓から見える蒼穹には黒い雲が低く垂れ込め、其処から白い結晶が今にも舞い降りて来ようかと言う冷たい冬の午後。
「うむ。それでは、コーヒーを頂こうかのう」
好々爺然とした雰囲気でそう答えるオスマン老。その時には既に部屋の真ん中に設えられたテーブルの上に、カートで運んで来た白磁のカップが並べられ、同じく白磁の皿の上にはお茶請けとして用意されたスコーンが存在していた。
但し……。
但し、ここまでで、既にいくつかの、少し腹黒い類のやり取りが行われたのは確実でしょうね。
例えば、オスマン老は午後のお茶に誘われて居た事を忘れて居ない事は、ほぼ確実。
あの時のオスマン老の問い掛けの意味は、儂に何をさせようと言うのかな、の意味。
それも、おそらく消極的な拒否。オ
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