第四話「とても不幸でみんなが不幸でそして俺が大富鉱」
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桜の花が散って間もない頃のことである。ふと冬二は何かに起こされた気がした。
窓からは昼下がりの暖かい日差しが降り注ぎ、そのぬくもりが風に乗って自分を撫でるように吹き流れている。その暖かな陽気の誘いに釣られ、冬二は再びうつらうつらと夢の中に流されていく。
また、何かに起こされたような気がした。
ぼんやりとする意識の中で、温かい何かが自分の背をなでるように叩いたのをようやくはっきりと感じる。冬二は、未だにこの何かの意思を感じ取ることが出来ずにいた。
「はぁ…昼休みの後だから眠いのは分かるんだけどね…」
不意に冬二の耳に声が届く。
確かに、眠くて仕方ないな。春眠暁を覚えずとはこのことか。じゃあこのまま寝るのも仕方ないよな。
そんな思考を巡らせていると、天からやや苛立ちを含んだ声が降り注いだ。
「先生としては、貴方には是非暁もお勉強も覚えて欲しいのよね」
それは天からではなく、頭上からの声だった。冬二が寝ぼけ眼で見上げた先には物理教師の滝本仁美の姿があった。
机に伏せるように寝ていた冬二からは仁美の高い身長も相まって、仁王立ちと言わんばかりの風貌を醸し出している。尚且つ、前方に張り出した彼女の双丘からは何やらただ事ではない威圧感と圧迫感を与えてくる。白衣の下のブラウスが服の上からでもそれが見事な形であることを彷彿とさせている。仁美は普段から淑やかな身なりを心掛けるために白のブラウスを着ているのだが、その体躯が上品な着こなしを全く別の雰囲気に仕立て上げていることに、彼女は自覚するどころか考え付きもしていない。
「…滝本先生には、人の心でも読む力があるんですかねぇ」
むっつりとした表情で冬二はぼやくように仁美に聞く。しかし、視線は彼女の顔ではなく、その無自覚に主張する胸に向けられていた。
「貴方がはっきり寝言を言いすぎるからです。全く、テストで赤点取っても私は知りませんからね?それと、話をするときは人の目を見て下さいね」
言われてようやく、自分が何処を見ていたかを自覚する。冬二は『すみません…』と会釈しながらようやく仁美の顔に視線を向けた。
別段怒ってはいないようだが、何処か困ったような表情をしている。ややおっとりとした性格所以か、見られているということより、目を見てくれないという点に困惑しているのだろう。勝手な憶測ではあるが、そう察しながら自分の心から毒気が吸われていくのを冬二は感じるばかりだった。
「ちょっと眠かったんで…気を付けますよ」
「はい。なら後30分ばかりですが、頑張ってくださいね」
そう言いながら仁美は、次に開くページを指示しながら教壇に戻っていく。
何人かの生徒は黙って教科書を捲っているが、その他の大勢は今のやりとりに何かを
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