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・・イオリさん」

その横には水の入ったバケツと雑巾、ブラシ。
1か月に1回、師匠であるイオリの墓を掃除しているのだ。

「もう来れないけど・・・その時は、きっとアイツが掃除してくれますから」

じわっと浮かんだ涙を拭い、ティアは笑みを浮かべた。
その笑みはやはり冷たくて、それでいて優しくて、どこか悲しそうだった。

「さよなら・・・イオリさん」











「あなたの弟子で、幸せでした」













「・・・」

ティアの言葉を聞いている男がいた。
近くの木の陰に隠れ、息を潜めて目線をティアに向けている。

(さよなら?どういう事だ?)

隠れる男―――――ナツは、眉を顰める。
先ほど、どこかへ向かうティアを見つけたナツは声を掛けようと後を追い、ここまで辿り着いた。
が、着いた瞬間話しかけにくい空気になり、木の陰に隠れた。
その結果・・・ティアはイオリの墓に向かって“さよなら”と言った。
あなたの弟子で、幸せでした・・・と。

「ティア」
「!」

気になった事をそのままには出来ない性格のナツは、数秒迷って声を掛けた。
ピクリと反応したティアは振り返り、青い目を見開く。
しゃがんでいた体勢から立ち上がり、数回瞬きを繰り返した。

「何で、アンタ・・・っまさか!」
「・・・聞いてた」
「―――――っ!」

こくっと頷くナツにティアは顔色を変えた。

「さよなら・・・って、どういう事だよ」
「・・・」
「お前、どっか行くのか?」

ティアは答えない。
ただ拳を握りしめて、俯いたままだ。
俯いている事と被っている帽子でその表情は全く見えない。
顔を覗き込もうかとも考えたが、空気がそれを許さなかった。

「来れないってどういう事だ?イオリの事、嫌いになったのか?」
「違うっ!私がイオリさんの事を嫌いになる訳ない!イオリさんは・・・っ!」
「!」

ナツは気づいた。
叫ぶティアの表情が、悲しげな事に。
今にも泣きだしそうな表情・・・見覚えがあった。
2年前のあの日・・・イオリの葬式の時の――――――。

「ティア―――――――」

ナツが何かを言おうと、口を開いた。
その時―――――




「見つけたわよ、久しぶりね・・・ティア」





声が響いた。
ナツの声でも、ティアの声でもない。
第一、ナツはこの声を聞いた事がない。


「ギルドで待っていても来ないからあの赤い髪の人に聞いたらここじゃないかって・・・全く、迎えに行くって言ったはずよ」


びくっ、と。
ティアが大きく反応した。
先ほど、ナツに声を掛けられた時の反応とは違う。

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