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万華鏡
第六十話 ハロウィンの前にその六
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「恐れ多いからね」
「それで今はなのね」
「6なのね」
「そう、これなのよ」
 堂々とだ、背中を見せての言葉だ。
「考えたけれどね」
「6にしたのね」
「兄貴に」
「兄貴のことは忘れないから」
 それこそ絶対にだというのだ。
「だから今日はね」
「その服を着てなのね」
「部活をするのね」
「そうよ、ついでに言えば勝利祈願でもあるから」
 それも兼ねているというのだ。
「阪神には日本一になってもらうわ」
「阪神の日本一ねえ、それはね」
「絶対になって欲しいわね」
「阪神の日本一は夢よ」
 部長だけでなくだ、日本全体のだというのだ。
「このまま何連覇となって欲しいわね」
「あっ、それ和田先生も行ってました」
 ここで琴乃が自分のクラスの話をしてきた。
「十連覇して欲しいって」
「ああ、和田っちね」
「はい、あの先生が」
「あの人もトラキチだからね」
 熱狂的な阪神ファンのことだ、中には自分の赤ん坊や自分自身までその頭を虎刈りにする人間もいる程だ。
「何でも家は阪神グッズだらけらしいから」
「そうあっても不思議じゃない人ですね」
「確かに。十連覇してくれたら」
 阪神が、である。
「いいわね」
「部長もそう仰るんですね」
「当たり前よ、私は生粋のトラキチよ」
 自分で言い切ってみせた、己がトラキチだと。
「それだったらね」
「十連覇もですか」
「阪神の優勝は何十年連続で見ても飽きないわ」
 こうまで言うのだった。
「それこそね」
「何十年ですか」
「そうよ、阪神はずっとね」
 ここで部長は腕を組み遠い目になった、遥かな過去までだ。
「栄光から遠ざかっていたから」
「それもあってですね」
「昔ね、手塚治虫さんも野球漫画を描こうって思ったのよ」
「えっ、そうなんですか!?」
「そう、あの人阪神ファンだったのよ」
 関西出身のせいかそうだったのだ、ブラックジャック等でちらりとであるが阪神の名前が出ていたりするのはそのせいであろうか。
「けれど阪神が弱いから今は、ってなって」
「そのまま描かれなかったんですね」
「そうなのよ、生涯ね」
「けれどあの人が生きておられる間の阪神は」
 手塚治虫の生涯は殆ど昭和と重なる、その頃はまだ阪神は暗黒時代にはなっていない。昭和六十二年からではあるが。
「強かったんじゃ」
「いや、戦前の阪神はもっと強かったから」
「そういえばあの人戦前も生きておられましたね」
「そうよ、だから戦前の阪神を知っていた人だから」 
 むしろ巨人より強かったかも知れない、当時の阪神は。
「それでその頃の阪神と比べたら弱くなってるから描きたくないって言っておられたの」
「そういうことだったんですね」
「昭和二十五年頃に言ったらしいわ」 

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