第29話「麻帆良祭〜別れの言葉〜」
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ることを自覚しつつ。
促すように手を差し出していた。
自分の、ほんのり火照った顔と汗ばんだ手。異常なほど緊張してしまっているが、それでもどこか楽しい。
そして、それを自覚した瞬間。
――……あっ。
拙者の中にそっと、優しく。だがはっきりと、それでいて重く。
彼と手をつないで一緒に歩きたい。
――なぜ?
わからない。
彼の隣で食事をしたい。
――いつから?
わからない。
彼の側にいたい。
――きっかけは?
わからない。
わからないことしかない。それでも確かに。
……これが、人を好きになるということでござるか。
恋が胸に芽生えていた。
一層赤くなった自分の顔を自覚して、だがタケル殿がなかなか手をとろうとしないことに気付いた。
「タケル殿?」
覗きこむように問いかける。
これからこの人とのデートが待っている。
どこか誇らしく、嬉しく、温かく恥ずかしい。
そして、タケルの腕が動く。
そっと、ゆっくり。
――だが。
「え」
呆然と、誰の声だろうか?
繋がりかけた手はすれ違い、微かな体温のみを残して空をきった。
――そして。
一歩。さらに、一歩。
なぜか、彼は後ろに退がった。
「……え?」
そして、遠のいた彼は首を振る。
「さよなら、と。それだけを言いたかった」
「――え?」
訳がわからなくなって距離を詰めた。
そうでもしなければ彼が見えなくなってしまいそうだったから。
――それなのに。
「明日で、学園を去る」
彼は言う。
「キミといる時間が一番温かかった」
彼の言っていることが分からなくて腕を伸ばした。
そうでもしなければ消えしまいそうだったから。
――それなのに。
「もう、会うこともない」
彼は、言う。
「俺は確かに……キミに恋をしていた」
「え?」
理解できないはずの言葉が、なぜか胸にストンと落ちた。
逃すまいと間を詰めていたのに、その言葉のせいでなぜか金縛りにあったかのように体が動かなくなった。
そして、最後の一言を。
「だから、さようなら」
そして、彼はその姿を闇の中に溶け込ませた。
「…………え?」
呆然と。
ただ、呆然と。
拙者の前から、彼は消えた、
天地の星々は煌くことを忘れずに、世界を照らしている。
最後の鐘が鳴っていた。
時刻は既に夜の9時。2日目の学園祭は終わりを告げて、明日へと向かう。
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